軒下の箱

やっているネトゲとか、何か書いたものとかをつらつらと。 不定期更新で行く予定

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というわけで公開。

TlonとAbeliaが遭遇する物語。
ありきたりですが、どうぞ。
一部厨二っぽい台詞回し等がありますので、御気をつけください。

誤字脱字は……あると思います。
直すつもりでいますが、私も見落とす可能性がありますので、よろしければ報告してくださるととても喜びます。



……後書き書きたくなるな……。


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Tlonは他人がどんな目にあっても涼しい顔で流せる男だった。
他人が目の前で罵られようが、虐げられようが、殴られようが、嬲られようが、それを全て目に収めたままどこかへと足を向ける。
そのせいで自分が罵られようとも別になんとでもないというように流してしまう。
良心、というものが欠けているように見える男ではあった。
が、今の彼は違っていた。

「やれやれ、我ながらどうしてこんな面倒なことに首を突っ込んだんだか」

回りの蟲を睨みつつ溜息を吐いたのは盾と剣を持つ男。
海岸に生息するワームと呼ばれる彼らは、ネオク高原に生息するものよりも強い。
さらに、一度攻撃を仕掛けると逃げることができない相手でもある。
逃げようとも執拗に追いかけて、いつしか追いつかれるからだ。

「……ご、ごめんなさい」

消え入りそうな声で呟くのは旅人と思われる服装をしたニューターの少女。
青い髪に黄色のリボンが特徴的な彼女は、半泣きになりながらも構えを取って一匹のワームと対峙している。

「……ネオクの蟲どもと同じ感覚でぽかぽか何匹も叩いてりゃこうなるのは明らかだって、の!」

文句を言いながら、右手に握った剣を一閃。
向かってきたワームを切り裂く。
それが倒れるのを満足に確認せず、攻撃態勢に入ったワームに対しTlonはタックルを仕掛けて間合いを空かせる。
ワームの攻撃が空ぶった隙をついて、Tlonのペットであるレアネオクビーク……水鳥が止めを刺す。
そのまま次の目標へと攻撃をシフト。
少女の後ろから襲いかかろうとしていたワームに幼生……無花果が噛みつく。
少女から気をそらしたワームはそのままTlonの斬撃と水鳥の攻撃を受けてその身を砂に沈める。
最後にTlonの後ろから襲いかかってきたワームには盾を合わせ、生まれた隙に右手の剣を突き入れ、払う。
二つに分かたれた虫はしばらく痙攣していたがやがてその動きを止めた。

「こんなところか」

残心の状態をとき、剣を軽く振ってTlonは呟くと水鳥と無花果に労いの言葉をかけてからその場を立ち去る。
人と関わるのは好きではあるが、人を助けるのは好きではない。
今回こうして間に入ったのも、少女が『たすけて』と声を挙げたからというだけ。
それさえなければ、否。
それすらあっても無視していただろう、場合によっては。

「ま、まってください!」
「ああ? 他になんかあんのかよ?」

誰が聞いても不機嫌と解る声音で、睨みつけるようにTlonは少女に振りかえる。
少女はおびえたように一瞬震えたが、しっかりとTlonを見つめ返し、言った。

「お、お礼をさせて下さい!」
「礼だぁ? あのなぁ……」
「とりあえずこれ、はい」

強引に何かを渡してきた少女。
Tlonはつい、落とさないように受け取ってしまう。
改めてその物に視線を落とすと……。

「トマトジュース、か」
「はい! 私バーテンダーなんで、一応、ですけれど」

はにかむように笑った少女に対し、Tlonは鼻を一つならすと踵を返す。
それを見て少女の顔が曇る。
自分の上げた物が嬉しくなかったのか、そう考えるだけで少女は悲しかった。
少女がため息をひとつついて帰路へと足を向けようとする、その時。

「……礼だけは言っておく。助かる」

風が、そんな声を運んでいた。

「は、はい! あ、私の名前はAbeliaです、縁があったらまた!」

先ほどとは打って変わって嬉しそうに叫ぶ少女。
その声を背中で受け、決して振りかえらないまま少年は答える。

「俺の名はTlon。ま、生きていりゃまた逢うこともあるだろう」

そうして今度こそ、Tlonは少女の元を去った。



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「縁が、あればか」

エルビン渓谷、そう呼ばれるところにTlonは居た。
自然があふれるこの場所、Tlonはここがダイアロスの中でも好きであった。
崖の淵に座りながら水鳥や無花果とじゃれ合う。

「縁があるから、逢ったんだろうってのに」

その声は、ただただエルビンの風に流れて消えて行った。
そのまましばらくじゃれあいながら眼下に広がる景色を楽しんでいたが、日が陰ってきたのを見て立ち上がる。

「さて、行こうか」

水鳥と無花果に声を掛けて歩き出す。
Tlonも流石に夜を風に吹かれて過ごしたくはなかった、なのでこの渓谷にただ一つ存在する村へと向かう。
村とはいっても、ニューターやパンデモス、エルモニーが主に暮らすところではないのだが。
それでもビスクやネオクよりも過ごしやすいとTlonは思っている。
Tlonは忌み子として生まれ、人里から遠く離れた山の奥で暮らしていた。
忌み子、とはいいつつも実際はその地域の風習でしかなく、Tlonは普通の人間だった。
だが他者から張られた『特別扱い』のレッテルははがされることなく、その目印はダイアロスに来るその日まで付け続けられていた。
そして解りやすいターゲットがあれば、人はそれを攻撃して自らの安定を得ようとする。
忌み子、そのようなものを地域の一部にわざと食い込ませるような弱い人間がいるのならば尚更。
それ故に、Tlonは人里に下りることはなく人との付き合いも一部を除いてなかった。
でも人とかかわることは好きになれた。
けど未だに人が苦手で、人里も苦手。
その二つの理由からTlonはこの村を過ごしやすいと思い、拠点としている。

「はぁ、我ながら女々しいというかなんというか」

そう呟いたころにはもう村の入口まで来ていた。
が、そこで見知った人影を見て頭を押さえる。

「……何で海岸で死にかける奴がこんなところに居るんだよ」

そのつぶやきは聞こえなかったはずだが、その少女はこちらに気がついたようで手を振る。
Tlonはため息を一つ、そして何かを諦めたように手を振り返した。



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酒場、とはいっても野晒しの椅子とテーブルがあるだけだがそれで十分だとTlonは思う。
良い酒場に必要なのはいい酒と、いい友人だ。

「かんぱい!」
「……乾杯」

だが、少しぐらい毛布とか用意してくれないか、とも思いつつグラスをこつんと合わせる。
中に入っているのは葡萄酒。
ゆらゆらと夜空の下で揺れるそれを飲みほして口を開く。

「……で、なんてこんなところまで来たんだ?」
「海岸から山の方に向かってたらいつの間にかに……」
「迷子になったってわけか、馬鹿じゃないのか?」
「う、だって地図がないですし」

確かに、ダーイン山の地図はない。
だったら引き返すなりなんなり思いつかなかったのだろうか、と考えて口に出すのをやめる。
目の前の、目に涙が溜まりかけている少女を泣かすのは得策とは言えなかったからだ。

「ったく、ここにたどり着けたのは運がよかったな」
「はい! Tlonさんにも会えましたし!」

元気よく答える少女はすでにワインを二本あけている。
しかし、少女は全く酔った様子もなく美味しそうにワインを飲んでいる。
熊の肉を焼いたものと蛇の肉を焼いたものをテーブルの上に置いてあったのだが、それも半分程少女の胃袋の中に納まっている。
それを少年は呆れるわけでもなくため息をつく。

「ったく。前向きなのかただの馬鹿なのか……」
「むう、酷い言い草ですね」
「酷くねえ、真っ当な言い草だ。……悪い、少し席を外す」
「あ、いってらっしゃい」

テーブルに背を向けて、銀行へと向かう。
ふと、手持ちの包帯が少なくなっていることを思い出した為である。
後でやればいいと思う人もいるのかもしれないが、Tlonは思いだしたら即行動を起こす。
何かあってからでは遅いという考えがあるからなのだが、その考えが作られたのも住人全てが敵だった故。

「……さて」

昔のことを思い出しかけた頭を軽く振って、席に戻ろうとする。
と。

「Tlon遅いよー」

頬を赤く染めた少女がそこに居た。
Tlonはテーブルの上を見る。
空けられたワインの瓶が三本になっているのはともかく、一本何やらおかしな形の瓶があるのはいただけない。

「……何飲んだ?」

一縷の希望、否、無いはずの希望を頼りに声を出す。

「んー、ウォッカー」
「……潰れねぇよな? 酔った人間を解放するなんて俺ぁごめんだぜ?」
「んー、ふふー。大丈夫ー」

大丈夫じゃねえから言ってるんだが、という言葉を飲み込む。
頭を左右にふらふらとゆらして楽しげに笑っている少女は誰がどう見ても酔っている。

「ねぇ、Tlon?」
「なんだ?」

顔を揺らしながら、笑顔で少女は尋ねる。
無邪気に聞こえる声で。
どこまでも、どこまでも楽しげに。

「血、頂戴?」

魔の顔を、表に出した。

「っ!」

一瞬にして席を立って後ろに飛び、そのまま柵すら乗り越える少年。
それを追って獣のように飛びかかる少女。
周りに居る狼よりも速く、獰猛に追いすがる。
少年は走りながら水鳥と無花果に指示を出してその場に留まらせる。
そのまま走り続け、周りに狼がいないことを確認して止まると、振り返って迎撃の構えを取る。
左手には木製の盾、右手にはサーベル。
それぞれを構えて勢いのまま飛びかかってくる影に向けて。

「っらぁ!」

肩から体当たりを仕掛ける。
飛びかかった勢い故に回避もできず、まともに食らった少女は間合いを開けることとなる。
だが……不利になったはずの少女は相も変わらず笑みを浮かべている。

「ふふふ、逃げなくても、いーのにぃ?」
「……逃げるだろ、あんな事言われたら」

流し目でこちらを見る少女に対して吐き捨てるように答えて剣を向ける。
対して少女はふらふらしながらも拳を構えている。
そして月下、少女の口元に輝くのは牙。
それが先の言葉を真にする証拠。

「血を、吸うつもりか?」
「そーだけどー? Tlon、すごいねぇ? 戻ってきた時からずっと警戒しっぱなし……不意を衝いて吸うこともできなかったわ」
「生憎、俺は人を完全に信用しないようにしているんだ。特に、酔払いはな」

色々な言葉を握りつぶして、少年は笑う。

「何せ、楽しいのは本人だけで厄介事だけ押し付けてくるからな」
「ならば貴方も酔えばいいと思うわ?」

くすりと、妖艶に笑う少女。
先ほどまでの無邪気な声から一変してどこか色かさえ感じさせるその声。
それに苦笑して少年は返答する。

「……今のお前を見ていると酔う気が失せるぜ?」
「あら、残念……」
「さて……酔っぱらいの酔いを醒ますのは素面の仕事ってな」

サーベルを下段に構え、盾を前に出す少年。
拳にグローブをはめ込み、足に力を込める少女。

「来いよ、吸血狼。……御仕置きだ」
「御仕置きされるのはどっちかしら?」

交差する拳と剣。
拳は盾に受け止められ、剣は空を斬る。

「はっ、それは勿論」

一瞬の硬直の隙に少年が体当たりを仕掛け、間合いが再び開く。
間髪入れずに少年は魔法を詠唱、好期を逃さずに間合いを詰める少女。
刃に炎が纏わりつくと同時、襲いかかる少女の拳。
それを避けカウンターの一撃。
光の軌跡を描くその一閃は少女の不可思議な動きにより回避される。
だが。

「っ!?」
「手前の方だ、馬鹿女!」

直後に襲い掛かった盾の一撃は回避できずにまともに貰う少女。
お返しとばかりに左の一打をTlonの左わき腹に打ち込み、後ろに跳んで離脱。
静寂。
二人の間に風が吹く。

「相変わらず、だね?」
「何がだ?」
「そう、そうだったね。……あはは、何か変なこと言っちゃったな、私」

自嘲気味に笑った少女の顔には今まで何かに取りつかれていたようなものがなく。
Tlonと出会った頃の少女、そのままだった。

「酔いは醒めたか?」
「あはは、ごめんなさい。酔いは醒めたけど……別のに酔っちゃったかも」

そう言って少女が見上げるのは月。
今宵は満月、青い月が夜の草原を照らす光源となっている。

「月に酔う、か。益々吸血鬼だ」
「ふふ、だって私吸血鬼と人狼の子供ですから」
「畢竟、俺は人外との縁が強いということか」

笑う二人に再び風が吹く。
それは二人の髪を揺らし、草を揺らす。
少女は心地よさ気に目を細め、少年は肩を回す。

「迷惑かけちゃいますけど……お相手、できますか? あと御免なさい、貴方が負けたら……私、血を吸っちゃうと思います。だから本気で私を倒しに来て下さい。そうすれば止まりますから」
「承知。敗者は何を取られても嘆くことすら許されんのも重々承知。さて……」

拳を構えて、申し訳なさそうな顔の少女に対して少年は笑う。
口端を持ち上げて、どこまでも、どこまでも不敵に。
神すら相手にしても、その態度は崩れることはないと人に思わせるように。

「存分に遊ぼうか」

自信に満ちた声で、言い放った。



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月下。
二つの影が躍る。
一つの影は夜を侵食する闇の如く。
もう一つの影はいなして吹き飛ばす暴風の如く。
満月と、奔る火花、炎剣を光源とし。
互いに互いを撃ち倒さんとする演武。
闇が左手で仕掛けるならば。
風は盾でそれを流す。
風が炎を纏う剣を振るうのならば。
闇は蠢きそれを避ける。

「なんで……っ!?」

闇が焦った声を挙げる。
先ほどまでの艶も色香もない。
それもそのはず、風は全てを予め知っているかのように対応し続けてくるのだから。

「悪酔いは、覚めたか?」

風はただ笑って声をかける。
焦っているのも何もかも知った上で、いやらしく笑うその顔は少女がいつも見ていたもの。
自信に溢れ、どんな時でも虚勢を虚勢と見せずに口端を持ち上げて不敵に笑う。
在りし日に憧れた……その姿。

「記憶がなくなっても、体が覚えてるってこと? なら……っ今度こそ!」

覚悟を決めて少女が拳打を放つ。
この身を焦がす衝動、血を吸いたいというわけでもない。
空腹など人と同じ食物で十二分。
ならば何故戦うのか。
至極簡単、至極単純。
ただ少女は少年と遊びたかった。
昔のように、少年が忘れたであろう遠い日のようにじゃれあいたかっただけ。
だからこそ自ら火の酒を口にした。
本気で挑んでもらうために陳腐な脅しも掛けたりした。
その上で少年は『遊ぶ』と言い放った。
負けた、その時には既にそう実感した。
それでも拳を止める気はないし、牙は使う気になれない。
これはあの時の再現、勝ち負けなど関係はない。
だけど、無様な形で終わらせたくはない。

「はっ!」

故に、しっかりと足を踏み込ませた一撃を放つ。
盾で受けようものならその衝撃によって無防備になってしまうであろう一撃は、空を切った。
それを悟った少女は次に来るものを避ける為に後ろに跳ぶ。
今までいたところを奔る赤い銀。
右手を振り下ろしたその姿勢を無防備と判断し、少年に向かって右の一撃を撃つ。
風を切る拳。
だが。

「力み過ぎだ、馬鹿狼」

風の流す音。
それが聞こえた瞬間少女の視界が白く染まった。
何が起きたのかわからず、一瞬無防備な姿を晒す。
そのまま一撃を貰い、闇をも焦がす炎が少女の身を包む。

「……っ!」
「盾は受けるだけじゃないんだぜ? 小手先の技術ならば俺のが上みたいだな」

挑発気味な言葉と共にさらに振るわれる炎を纏った刃。
再び避けようとボーンレスと呼ばれる技術で回避を試みる、が……。

「!?」

白銀はそのまま目前の空気を薙ぐように通り過ぎ、その向こう側に少年の背中が見えた。
その一瞬後に体に走る衝撃。
何が起きたのか理解しつつ、体の力が抜けているのを実感する。
そして。

「これで終いだ」

盾で思いっきり頭を殴られ、少女は気を失った。



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倒れた少女を見下ろした少年は、一言ぽつりと言葉を漏らす。

「全く、力に頼りすぎるなと言われただろうに。というか足も使え、足も。レッグストーム使われたら俺盾使えねえんだからよ……」

勝者の少年には喜びもなく、ただ溜息をついて頭を押さえた。

「……で、コレをどうしろっていうんだよ」

足元に倒れている少女を見て零す。
その若干泣きが入ったような問いに答える者はいなかった。



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少女は夢を見ていた。

『ねぇ、とーちゃん』
『……誰が手前の父ちゃんだ。で、何?』

『私、人間じゃないけど。どうしてこうして話してくれるの? 遊んでくれるの?』 
『ん、なんだよ。そんなことか?』

『そんなことって……』
『あのな? お前は犬とは遊ばないか? 猫とは遊ばないのか? そう言うことだろうが』

『……私って犬や猫と一緒?』
『ぷっ、そういうことじゃねーけどな? まぁそれにだ』

『それに?』
『種族なんて気にするようなもんじゃねー、そうだろ? そんなの気にしていたらつまんねーよ』

『……』
『俺に危害を加えない奴なら大歓迎、そう言うことだ』

何時の日かの。
在りし日の光景。
平和な光景、そして……。

『……あー、腹に穴が開くって結構きっついな』
『とーちゃん!?』

『だから誰が手前の父ちゃんだ……』
『しゃべっちゃだめ!』

『あー、大丈夫大丈夫。親父に任せりゃ平気だろうよ。神通力ってのがうさんくせーが治るもんはしっかり治るし』
『……私の、せいだ』

『ああ? 別に誰のせいでもね……っと』
『とーちゃん!?』

『わりぃ、ちっとばかり眠るわ……』

『いや、嫌だよ……。 わ、私のせいだ、私が居たから。私がとーちゃんの従妹だから……』

『……』
『おばあちゃん。もらった忘れ香、使わせてもらうね』

『ごめんね。さようなら。ありがとう……っ!』



--------------------



「おいこらさっさと起きやがれ」
「ふにゃ!?」

軽い衝撃を受けて少女は目を覚ます。
見知らぬ場所、だけど……。

「ったく、ようやく起きたか。ねぼすけ」

聞き馴染んだ声。
何時も自分を見守って、そして甘えさせてくれた声。
それに向かって。

「おはよう」

と。
在りし日に見せていたであろう笑顔で、少女は答えた。



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少女が後悔した日は幾度もある。
今までと同じように触れられないのは辛かった。
でも、それ以上に自分のせいで犠牲になってしまうのが辛かった。
どうしても、どうしても辛かった。

「体が痛い……」
「仕方がないだろう? 俺一人なら野宿で問題ないが、お前はそうもいかんだろうし。宿の二階を借りれただけありがたいと思え」

少年はあの後、少女を運びどうするか思案した。
結果、宿屋の主人に頼みこんで二階にある開けたスペースに少女を寝かせることとなった。
毛布も何もなかったが、野宿よりはましだということでそのまま放っておき、少年は酒場で一晩を過ごすことにした。

「……私は、まだしばらく山で修行することにします」
「ダーイン山か。あそこならちょうどいいだろう。ここは、犬がうるさくてかなわんしな」

二人が村の出口へと着き、足を止める。
その途端、風が吹く。
風になびいた髪を押さえながら少女は思いを馳せる。
あの時、自分の判断は間違っていたのかどうか。
そう悩み続けて、今の今まで心の底から一回も笑えなかった。
だけど、今。
自分は目の前に居る人を守れたのだろうと。
迷惑を掛けてしまったけど、守れたと思う事が出来た。
だから少女は笑顔で、心の底からの笑顔で約束を紡ぐ。

「それじゃ、また会いましょうね」
「ああ、また逢おう」

その約束は再び結ばれる。
かなうかどうかはわからない、だけどこの約束がある限り少女は頑張れる、そんな気がした。

「あ、Tlonさんって呼ぶのも何か語呂悪いのでとーさんって呼んでいいです?」
「……もっと別の呼び方はねーのか?」

苦い顔をする少年。
その顔が懐かしいあの日の顔と重なり笑みを漏らしてしまう。

「冗談ですよ。そうですねぇ……お兄さんって呼ぶのも何かあれですし」
「何故そんなチョイスが出てくる?」
「え、だってなんかお兄さんみたいですし。なんだか御節介焼きというか、面倒見がいいみたいですし」
「……そうか?」
「そうじゃなかったら私なんて放っておくでしょう?」
「否定ができんな、気恥かしいが」

互いに笑う。
このような時間がいつまでも続けばいいと、少女は願うがそれは叶わぬ夢。

「さて、では俺も行くとしよう」

夢のひと時が終わる言葉。
そう言って背を向ける少年に少女は笑って。

「ええ、兄さん」

見送って、自らも背を向ける。
二人、歩く道は違えども。

「同じ空の下に、いるから」

空には太陽が、緑の草原を見守るように照らし続けていた。



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別れてからしばらく。
鹿の群生する森の中、木に寄りかかって身を休めた少年は空を見る。
木々の葉に透かされた日の光は優しい緑となって降り注ぐ。

「……やれやれ、俺はお前の父さんでも兄さんでもないんだっての」

少年はそう、笑って呟いていた。

「というかあれでだませてると……ああ、俺があいつのこと『忘れていると思いこんでいる』から油断しまくってるのか」

忘れ香。
忘れたい出来事を祈りながらかがせれば、かがせた相手はそのことを忘れるという代物。

「いやまぁ、そんなもんがあるのならあの婆さんも売り出してるだろうっての」

ただの老人の悪戯。
それがこんな結果になるとは思っていなかったのだろう。
すぐさまに真実を伝えようとした老婆を止めたのは……少年だった。

『あいつが、俺のことを重荷に思うのならば。手前のせいで俺が怪我をしたと思い込んでいるのならば』
『その思い込みを斬り伏せれるほどに強くなってからの方が、あいつが苦しむことは少ないだろう』

「やれやれ、あいつに心配かけない程に強くなってからすべてを明かそうって、思っていたんだがな」

この島に来てから施された蘇生術。
それは確かに成功していたが、成功した故に失ったものがあった。
そのせいで自らが築き上げてきたものを失う羽目となり、今こうして一からやり直している。
どうやら、真実を明かすのは当分先になりそうだ。

「というか、俺も色々とちってるしな。つうか、強い酒で酔う癖治ってなかったのかよ。性質の悪りぃ……」

酔い方が特殊な少女を思い返して頭を押さえる。
泣き上戸、笑い上戸ではなく。
酔うと『吸血魔』となる少女。
過去に何度、文字通りその毒牙にかかりそうになったことか。
少年は思い返して癖になりつつある溜息を深く吐く。

「あまつさえ俺のことを兄と呼ぶ心算か、まぁ別にかまわんが……本当手間のかかりすぎる妹がこの年でできるとは」

青い空の下。
偽って生き続ける少年は偽りのない笑みを、苦々しいものではあったが浮かべて。

「やれやれ、あのバカ娘の兄の名に恥じないように頑張るとするかね」

今日もどこかへと足を向けて行った。
















「ん、なんだこんなところでぶっ倒れて?」

少年が見ると、そこには赤毛のニューターと思わしき人。
顔をのぞきこめば気絶しているらしい。
アルビーズの森、こんなところで倒れていればすぐにモンスターに襲われるだろう。

「……やれやれ、一難去ってまた一難、か」



to be continue?


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狩咲 佐倉

Author:狩咲 佐倉
ネトゲとかいろいろやってます。

このブログの更新頻度は確実に遅くなる、だろう。




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