軒下の箱

やっているネトゲとか、何か書いたものとかをつらつらと。 不定期更新で行く予定

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というわけで本格的に始まりました。
オープニングで解るかもしれませんが、これは主人公が二人います。
今回はその一人、神崎椎名が主役のお話。
椎菜が主役の時は、タイトルに Side E と付きます。

コメディの予定だったのがいつの間にかにシリアスっぽくなっていた……。

そして相変わらず世界観の説明を入れていくのが下手だと気がついた……orz


注意書き

この物語はフィクションです。
趣味全開で痛いとか思っても叩かないでください、心弱いです。
著作権とかは狩咲にあるので、無断転載などはご遠慮ください……するようなもんじゃないけど。
誤字脱字、その他ありましたらコメントにて気軽にどうぞ。






Colors    「はじまりの邂逅」   - To Ash -






黒い髪を持つ少女は一つ溜息を吐く。
白のノースリーブのパーカーにデニムジーンズ、別におかしな格好ではないがこの場所においてこの格好は浮いてしまう。

「どうかしましたか? 神崎様」
「ん、ちょっとね。早く来すぎて待ち疲れちゃったなって思って」
「そうでしたか。それでは、ごゆるりと」

船員が去ってから、また一つ少女……神崎椎菜はため息を吐く。
流石に自分の格好が浮いてるんだろうな、と考えた等とは言えなかった。
言ったところで、選んだ自分が悪いということではあるし。
だが、早く来すぎたというのは本当だった。
こうなったのは、夜島発の灰島行きの船の本数が予想以上に少ないことと、その中で一番早いのがこの豪華船だったという事だ。

「はあ、それにしても五時間も待つのは辛かったよ……」

三度目の溜息をついて、宛がわれた個室から窓を覗く。
外は空、下を見れば海のような青がどこまでも続いている。
空を泳ぐ船、これがこの世界に置ける主要な交通手段の一つ。
この世界に浮かぶ八つの島を繋ぐ唯一の手段。

「お腹減ったし、食堂でも行こう……」

外の風景を眺めるのに飽きた椎菜は、そう呟いて食堂室へと歩を向けた。





そこにはもう既に何人か席について食事をしていた。
それにならって椎菜も空いている席に座り、テーブルの上に置いてあるベルを鳴らす。
豪華飛空船ということもあり、豪奢なテーブルの上に置かれているそれは、クリスタルと思われるものでできていた。

「……こんなところにお金掛けるより、料理にお金掛けてほしいなぁ」

メニューを眺めながらそう呟いて暫く、背の高いボーイが笑顔を見せつつ椎菜の座るテーブルにやってきた。

「ご注文は?」

明らかに服装の雰囲気が違う相手でも接客の態度を変えない。
そう当たり前な事をきちんとやっているところにこっそりと感心しつつ、メニューを返しながらオーダーを告げる。

「本日のお薦めをお願いできる?」
「かしこまりました」

綺麗な礼と共に去っていくボーイ。
その背中を見送ってから、懐から手帳を取り出しぺらぺらとめくる。
そして、とあるページを開いたところで手を止め、眺める。

「さて、帰ったらどこに行けって言われるのかな……。黒島地域以外がいいけど」

そこに書かれているのはスケジュール。
この春休みという短い期間のものであり、真っ黒に近いそれを眺めつつこの休みの思い出にしばし浸る。
すると、椎菜の耳にどこかで聞いたような声が届く。

「ここ、いい?」
「うん、どうぞ」

つい反射的に応えてしまってから、その声の主に目を向ける。
そこには、つい先日親切に道を教えてくれた赤髪の少女が黒のレザーパンツと赤いコートに身を包んで笑っていた。

「あ、昨日はありがとう。おかげでこうして無事に帰ることが出来そうだよ」

恩のある、ということもあり椎菜も笑顔を見せて礼を言う。
それに赤髪の少女は気にした風もなく、テーブルに付く。

「どう致しまして。それにしても、貴女も灰島に行くのね。帰るってことは灰島出身?」
「うん、学生だよ」

と、少女二人が会話しているところに船員が料理を運んでくる。

「失礼します」

椎菜の目の前に置かれた料理はステーキとパンとコーンスープ。
運んできた船員に赤髪の少女も同じものを、と声をかけて会話を再開する。

「なら、貴女のいる学校に行こうかしら。私、入学するために灰島に行くのよ」
「そうなんだ、歓迎するよ。けど、私と同じ学校に来るなら、私と関わるのはやめた方がいいかもね」

口を二つの意味で動かす椎菜の言葉に、赤髪の少女は首を傾げる。
彼女には目の前の存在がそんなことをしなければいけない存在には見えなかったからだ。
自分より、完全に、確実に、善人と呼ばれる人間なのだろうから。

「理由が知りたいって顔してるね……。簡単に言うと……」

炸裂音。
それに瞬時に反応できたのは、椎名を含めて三人。
豪華客船、ということもあり人間と対峙したことのある人間が少ないが故の結果。
それを椎菜は理解し、即座にテーブルの下に潜り込む。
と、同じ行動をした赤髪の少女とテーブルの下で目があった。

「……お互い、結構アグレッシブな人生生きてるみたいだね」
「そうね。はぁ、認めたくはないけどこういうときこの体の小ささに感謝よ。直に隠れられるわ」

小声での会話をしながらも、耳はテーブルクロス包まれた向こう側へと向けている。
テーブルの下に居れば、長いテーブルクロスのお陰で体は隠れられる。
だが、それは逆に言えば周囲の状況に対する情報を得る、その重要な感覚の一つを自ら塞ぐことでもある。
つまり、彼女達は聴覚にて相手の状況を推し量らなくてはならない。

「こんなことになったし、きちんと自己紹介しておくね。私は椎名、神崎椎名。適当に椎名って呼んで」
「……こんなこと、になったからって理屈はおかしいと思うわよ? ま、いいわ。私はフェルノ・イン。フェルノって呼んでくれると助かるわ」
「私が死んだ時に身元確認になってくれると助かるかな、っていう考えだから可笑しくないよ」
「そういうこと考える方がおかしいって解ってくれないかしら? それに、態々矢面に出るつもり?」

軽口を叩きながらも、二人は聞く。
数人の男の者と思われる足音と、何かが転がる音。
そして再び響く破裂音……否、銃声。

「手前らぁ! 大人しくしろ!」

続いて聞こえるのが男のだみ声。
金属音がかすかに聞こえたこと、その声と同時に物音が響いた為、恐らく他の人は大人しくそれに従ったのだろう、と椎菜は考える。
もし、従っていなかったら男達がさらに何か言っているに違いないのだから。

「さて、どうしようかな」
「ねぇ、このまま事態解決を待つっていう手を選ばないの?」
「んー、却下。この後の交渉次第じゃどこに行かされるか解ったもんじゃないし。その先でどうかなるのも嫌だしね」

足音から相手の人数が六人前後だと判断、このテーブルに近づいてきた時に不意打ちで一人を排除したとして四人。
一対四という戦いに持ち込んだとしても、相手が銃を持っている以上、乗客を巻き込む可能性は否めない。
二人はそこまで考えた上で、どうするかを選択する。

「生憎、礼義なんて知らないから敬称無しで呼ぶね? フェルノ、一体どうする?」
「そっちの方が私も気が楽だわ。私はやっぱり傍観しようと思ったけど……話してる内容が穏やかじゃないわね。こんなことをしてる時点で穏やかじゃないけど」
「ま、ね。後は、実は今日中に向こうにつかないと、明後日ある始業式に疲労困憊で出る羽目になるんだよね、私」
「……私にも戦う理由ができたわ、どう見ても今日中につかないとそっちの学校に手続きできないじゃない」

テーブルクロスの向こう側。
夜島の隠れた港へ行き、そこで全員の身柄を拘束する、などといったことを得意げに話している男の声を耳に入れながら、二人は覚悟を静かに決める。
見周りの為か、男の足跡と共に金属が触れ合う音がテーブルに近づいてくる。
二人は互いに目を合わすと、構える。
何時でも動けるように、直に飛び出して行動できるように。
そして、その時が……来る。

「!」

小さな金属音と共に足音が至近距離で聞こえる。
それを合図に二人は低い姿勢のままそこにいるであろう男に向かって飛び出す。
周囲を見回し情報を収集、敵は全員紺色の服に身を包んだ上で覆面をしていた、さらにテーブルの位置と他の男達の情報を収集、近くの男一人を含めた男七人が食堂に座っている六人を制圧していることが伺えた。
そこまでを頭の中で整理する間もなく、飛び出した勢いのまま目の前の男に椎菜はそのまま首に手刀を、フェルノがコートの下から腰に差したククリ刀を抜き放ち柄で頭を殴り飛ばす。
物音に気付いて銃口を二人の方向へと向けるのは六人の男。
だがその時には二人の足元には崩れ落ちる男が一人。
二人はそのまま収集した情報から次の行動を決定、射線上に入っても撃てないように、敢えて男達が囲んでいる中心に二人は飛びこむ。
だが、それに戸惑ったのは先ほどまでの声の主と思われる人物のみ。
他の人間はナイフに持ち替えて二人へと接近する。

「燃えて、しまえ!」

その声と共にフェルノに近づいた男の服『だけ』が燃える。
『スキル』、生きている人が生まれながらに持っている『シンボル』、そしてその人が決めた一つの『マテリアル』、その二つが結びついて初めて人に備わる『能力』。
類似するものが存在しても、全く同一のものは存在しないとされる唯一。
フェルノと名乗る少女が持つそれは、『炎の嵐』の名を冠する発火能力。
名前とは裏腹に、対象のみを的確に燃やすスキル。
その為、炎は男の服を燃やすだけで留まるが、男はそれが解らないためにすぐにそれを消そうと転がる。
それが致命的な隙となる。

「二人目!」

転がる男の頭をその意識ごと蹴り飛ばす。
流石に立っている男の頭は体格差がありすぎる為に蹴り飛ばせはしないが、転がっているのならばフェルノの身長でも問題なく全力で蹴ることができる。
だがその後ろに男が迫る。
ナイフを振り上げる光景をその目に収めたフェルノは、迎撃が間に合わないと悟り痛みを覚悟する。
だが……。

「Gigantic arms(巨人の拳)!」

椎菜の叫びと共に襲いかかった黒く巨大な腕が、男をそのまま壁の方へと弾き飛ばす。
その持ち主は、声の主でもある少女。
フェルノはそれを見て一瞬目を見張るものの、軽く頷いて次の対応に入ろうとする。
だが、既に残りの四人がそれぞれ二人ずつナイフを振り上げた状態で駆け寄られている。
しかも、態々前と後ろで挟み込む様な配置の為に両方を封じるのは難しい配置。
互いに背中合わせになろうとしても、確実に二三歩の移動が必要となる。
椎菜は両方をその両腕で受けることを覚悟、フェルノは一人をククリ刀で受け止めてもう一人を相撃ち覚悟でスキルで燃やそうと決める。
その時。
響く銃声四つ。
その後に遅れて響くのは甲高い金属音。
それがナイフを銃弾で弾いた音だと理解した二人はそのまま両腕で、ククリ刀の峰で男達を殴りつけて無力化する。

「……間に合ったか」

僅かに硝煙の香りが立ち上る白銀の銃を両手に構えたまま、銃弾を撃った少女が一息吐く。
ブラウンのVネックのシャツに同じくブラウンのショートパンツ、腰のベルトには銃を収める為のホルスター二つにマガジンがいくつかくくりつけられている。
その足元はブーツ、長い白髪は邪魔にならないように根元のあたりでゴムで止められて余りはそのまま背中に垂らされている。
格好はどう見ても豪華客船に乗り旅行を楽しむ人のものではない。
それだけの人物に誰も気がつかなかったという事は無く、つまりは椎名達と同じようにテーブルの下で動きを探って動く機会を見計らっていたのだろう。

「え、エルザさん!?」
「……神崎。質問は無しだ、さっさとそこの馬鹿げた男を捕まえてこの騒動を終わらそう」

驚きの声を上げる椎菜に構わず、それだけ言って腰を抜かしているだけの男に銃をぶら下げたまま歩み寄る。
それを見て、情けない悲鳴を挙げぺたんと尻もちをつく男。
既に手に持った機関銃の引き金からは指が離されている。

「……引き金も引けぬ軟弱男。他に何人仲間がいる?」
「ひ、ひぃっ!」

年下の少女に聞かれても唯怯えるような声しか出せない男に、エルザと呼ばれた少女はため息をついて銃を男の頭に押し当てた。

「いいか。良く聞け。……仲間は、他に何人だ?」
「そ、操舵室に、五人、見周りが、八人、です」
「ご苦労」

何とか声を絞り上げた男の頭を殴って気絶させて、エルザは二人の方へと振り返る。
そこではすでに、倒された他の男達がテーブルクロスで見事に拘束されているところだった。

「聞いたか?」
「勿論、どう見てもおかしい話だってことぐらいはね」
「……どういうことよ?」

椎菜は人差し指を一本立てて一言、フェルノの漏らした質問に答える。

「ハイジャックにしては人が少なすぎるってことだよ」
「恐らく見周りが何か倉庫から奪っているのだろう。……その後本人たちは脱出、操舵室にいる人間は殺してしまえばついでに私達も処理できる、といった具合か」
「冗談じゃないわ」
「その通り。だからこれから操舵室へ向かうが……神崎、そして見知らぬ人。悪いが前衛を務めてくれないか? どうやらここには私達以外の全員が金ばかり持って度胸を持たぬ腰抜けみだいだからな」

侮蔑を隠そうともせず、食堂に座り続けている人間に冷たい視線を一通り送るエルザ。
怒りを覚えながらもその視線を見返すことができず、その場にいる人間は俯く。
それを見てため息を一つ吐いて、申し訳なさろうに二人に目をやる。
二人の少女はそれぞれ苦笑を、ため息を零しながらも僅かに頷いてから、操舵室へと向かう通路を走る。
その後を、エルザは銃を確りと握り直して駆けだした。






この船は宙に浮かぶそれぞれの島を結ぶ唯一の交通機関。
そのため、セキュリティはそれなりに高い。
だがそれを打ち破ってここまでやっている。
その時点で、椎菜は警戒を強めていた。
事実、素人ならば本来有利である銃を捨てきれずに、棒立ちになったままのはず。
直に遠距離である利点を捨てて此方に飛びかかってきたこと、そして。

「……あの人達、スキル使ってないんだよね」

その事実。
『覆面をつけていた』ことと合致するに、個人を特定できる手がかりを少しでも減らそうとしたと推し量る。
とはいえ、恐らくそこまで手の込んだことをする以上、この飛空船を落とそうとしているのも本当だろう。
だとするならば、態々顔を

「気になっては、いた。あのリーダー格が唯の馬鹿だったにもかかわらず、その手下と思われる人間の動きは手慣れていたからな……。最も、二人とも対人間の戦闘に手慣れている気はしていたが」
「私は夜島出身よ? ……わかるわよね?」
「私は突っかかって来る人が後を絶えなくてね」

操舵室への道を走りながら、そんな会話を続ける。
それでも頭の中では確りと操舵室での対応をシュミレート。
結果……。

「で、私が斬り込みってことでいいよね?」

提案、ではなく確認。
椎菜は三人の能力を今まで分析し、最適だと思われる役割を考えていた。
まず先ほど会ったばかりのフェルノ。
スキルは大凡対象指定の発火能力で、室内でも使用可能。
さらにククリ刀による近接もこなす遠近対応可能なタイプ。
次にエルザ。
スキルは解らないが、学園での話を聞いていると完全なる遠距離タイプ。
先ほどの銃撃から見てその正確性は高い。
次に自分。
遠近対応できなくもないが、圧倒的に近接におくことののアドバンテージが大きい。
生半可な力では、『巨人の拳』に対抗できないし、もし他の手段で来られても『別』のものを使えばいい。
そこまで考えて、それらの情報は先ほどの戦闘で全員把握しているだろうということからの確認。

「私が前衛、フェルノが中衛、エルザさんが後衛、っていうのがベストかなって思うんだけど……」
「各々のスキルを完全に把握していないが、私は後衛に向いているだろう」
「私も異存はないわ。……その『腕』みると力も強そうだし」
「私自身の力はそんなでもないんだけどねぇ……」

と、走っていくと操舵室前にある部屋の扉が閉まっていた。
椎菜がドアノブを回してみるも、開かない。

「時間がないのに! 仕方がない、私が燃やし……」
「邪魔っ!」

フェルノが自分のスキルで扉を燃やそうとする前に、椎菜がドアノブから手を離し。
その大きな黒い腕を振りかぶり、扉に叩きつけた。
衝撃音。
それと共にドアはそのまま吹き飛び、向かい側にあった操舵室のドアにぶち当たる。
流石にその音に気がついたのか、操舵室にいる人間五人のうち四人がドアを開けて出てきた。

「……ごめん」
「うん、あー、向こうの扉開ける手間が省けてよかったわ」
「仕方がない、操舵室に残っている下郎は……私がどうにかしよう」

展開した三人の向こう側。
状況を理解した一人が操縦士に手にしたナイフを振りかぶろうとする直前。
エルザは自分のスキルを発動させ、銃を構える。
名前すらまだついていないスキル、その能力は簡単に言えば弾道予測。
撃つ前から銃弾の軌跡が見える、それだけといえばそれだけだがどんなものも扱い方次第で強力な武器となる上、このスキルは室内で真価を発揮する場合が存在する。
そう、描かれるのは銃弾が何かに当たるまでの軌跡では無く。
目標を射抜くまでの軌跡なのだから。

「Misson Complete」

銃声二轟、響かせて僅かな笑みと共に零れたその呟きは、ナイフが落ちる音と、男の呻きに掻き消され。
続けて響いた肉と肉がぶつかる音と男達の悲鳴と鈍い音に余韻すら霧散した。
ふとエルザが視線を向けると、フェルノが男の服を燃やしてから頭を殴りつけ、椎菜が二人の男の頭を巨大な腕で掴んで互いにぶつけ合っているところだった。

「訓練されてるって言っても、対人思考な人に私が負けるわけがないってね」
「……見た目がもう化け物だわ」

フェルノの言葉を聞き流し、椎菜は相手の戦力を把握する。
無傷な男が一人、腕を撃ち抜かれて操縦士の始末を諦めた男が一人、それ以外の三人は地面に倒れて気を失っている。
相手にとって圧倒的不利、何しろ相手は銃を持っていたとしても……。

「撃たせては、くれないんでしょうな?」

無傷な男が口を開く。
銀髪に目元だけを覆うマスクという出で立ちでスーツを着込んだその男、その雰囲気から彼が纏め役なのだろうと椎菜は思考を巡らす。

「懐にある玩具のことならその通り。……あんたが抜くより私が撃つ方が、速い」

その言葉に返すのはエルザ。
銃口二つをその男と、その後ろで腕を押さえている男に向ける。

「……当日に、貴女達みたいな戦える人が入ってくるとは。予想外でしたよ」
「だから、奇襲用ね? どうにも張り合いがないと思ったわ」

対処しながら、相手にスキルを使う気がないことも、相手がこちらの急所しか狙わないことも解っていた。
訓練されてはいても、短期、それも奇襲に重きを置いたのだろうという事まで理解し、フェルノはこの為だけに人員を育てたのかもしれない、とまで考えてはいた。
だが、そこでさらに椎菜が斬り込む。

「逃がすつもりはないけど、逃げられるだろうね」
「……逃げられないと思いますが?」
「だったら早く、その左手に握っている物騒なものを手放してほしいんだけどね? スタングレネードも、立派な凶器だよ?」

その言葉に反応してライザは引き金に指を掛け、フェルノがスキルを発動しようと身構える。
だが。

「殺傷能力はないので凶器ではありませんよ」

それよりも一瞬早く、男の左手からそれが地面に落とされる。
閃光。
目を覆う仕草に間に合った椎菜だが、それより早く男の姿はかき消えた。
その場に、黒い箱型の一つの置き土産だけを残して。

「倒れてる男も消えた。……床に落ちてるこれってまさか?」
「俗にいう、爆弾でしょうね」
「みたいだな」

視界が戻ってきた三人がその置き土産を見る。
ごちゃごちゃとしたケーブルと、カウントダウンを始めているディスプレイが存在する黒い箱。
人はそれを、時限爆弾と呼ぶ。

「って、どう見てもあと20秒で爆発よ!?」
「くっ、流石にドアを開けて投げ捨てるわけにはいかないぞ!?」

空を飛んでいる飛空船、そのドアはしっかりと固定されている為に時間を要する。
つまり、時間が足りない。
慌てる二人の間、椎名だけはその箱を掴んで、一息。
その様子を見たエルザは自分の記憶から目の前の存在の力を思い起こす。

「……まさか?」
「うん、そのとーり。だから二人とも離れてて」

その言葉に頷いて、エルザはフェルノと共に壁際へと寄る。
椎菜は、それを確認すると爆弾を放り投げてから幽かに笑って、呟く。

「Eating bite(暴食の口)……」

途端、その右腕が変化する。
それは巨大な黒い狼の頭。
目も無く、舌も無く。
ただ乱立する牙と赤黒い口内のみ、食べる為だけのものだけが存在するパーツ。
正しくそれは、食べる為だけに生まれ、使われるモノ。
その巨大な顎は宙に浮かんでいる爆弾を、『空間』ごと食らい付き、飲み下した。

「……処理完了、ってね」

一息吐く椎菜。
その後ろでは呆然としたフェルノと感心しているエルザ。
そして椎菜の前方にいる操舵室では。

「……今日、占いでついてるって言われたばかりなんだがなぁ」
「ついてなかったら首落とされてたんじゃないっスか?」

顔を青ざめながらも操縦する二人の男がそんなことをぼやいていた。





「それにしても散々だったね」
「ええ、散々よ」
「私もだ」

予定より大幅に遅れて到着した飛空船。
今日のことは内密に、と金一封を渡されて解放された乗客の多くとは別に、三人はさらに残されて他の客とはさらに厚みが増した封筒を貰う事となった。

「儲け物、とは思えないよね」
「確かに。時は金なり、金で買えない唯一のものを無駄にしてしまった」
「でも、あって困るもんじゃないわね」

茜色に染まる灰色のビル。
それを見上げながらフェルノは笑う。
と、ふと思い出したように椎菜へと視線を向ける。

「そういえば、椎名と……えっと」
「エルザ・フリントロックだ。エルザで構わない」
「ありがと。エルザとは知り合いなわけ? あとあのスキルについても教えてほしいわね」

単純な疑問を解消するため、唯それだけだとでもいうように尋ねられた言葉に椎菜は僅かに驚く。
それは今まで見せた反応を彼女がしなかったから。

「珍しいね? アレ見た後だと皆怖がるんだけど」
「生憎。あんなもんで怖がるほど女の子してないのよ」

冗談交じりの言葉につられて椎菜も笑う。

「私とエルザは現クラスメイト。で、あのスキルは指定した一定空間にある物体を消滅させるスキル。ついでに生物を消滅させた場合その生物の体の一部分を私の腕を変化させることで再現できるってところかな?」
「……反則じゃない」

あきれ気味なフェルノの言葉。
それでも、怖がられなかったことが嬉しくて、椎菜は笑った。

「ま、いろいろ制限あるけどね。さて……とりあえず」

並んでいた三人。
その中で椎菜が一人駆けだして、しばらくしたところでくるりと振り返る。

「灰島へ、ようこそ!」

屈託なく笑う椎菜。
その笑顔を、フェルノはこそばゆい様な、眩しいものを見たかのような。
そんな気分で、見つめ返していた。

「明日からよろしくね?」

が、その一言で血の気が引く。
そう、フェルノはここに何しに来たのか。

「……椎菜、お願い。学校、案内してくれる? 今直に」

ようやく自らのやるべきことを思い出した少女は、ちょっとだけ必死だった。







ドアが閉まる音が響く。
結局椎菜はあの後フェルノを送り、そのままエルザとフェルノに別れを告げて帰路に着いた。

「ふう、疲れたぁ」

寮の自分の部屋に戻ってきて、最初にしたことはベッドへのダイブ。
シャワーでも浴びなければ、そんな思いは部屋のドアを開けたとたん襲いかかってきた疲労に消えた。

「……本当、散々だったよ」

仰向けに転がって思いを馳せるは今日の事。
ハイジャックなんてものに出会うのは相当運が悪いのか、そんなことを考えているとふと頭を過る不安。

「まさか、ね」

それを振り払おうと、疲れを押しのけてシャワーを浴びに向かう。
と、気づく。

「……フェルノに説明、忘れてた」

愕然としてから、明日でいいやと思いなおしシャワールームへと入る。
しばらく後、椎菜の疲れと不安を洗い流す水音が部屋の中に響き始めた。




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狩咲 佐倉

Author:狩咲 佐倉
ネトゲとかいろいろやってます。

このブログの更新頻度は確実に遅くなる、だろう。




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