軒下の箱

やっているネトゲとか、何か書いたものとかをつらつらと。 不定期更新で行く予定

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刃と魔法の使い方第一章の続きです。
本日中にできる所まで更新する予定です、頑張ります。

そろそろきちんと用語集を作らないと読む人が混乱しそうな気がしているのでそちらも作成中。


……展開を急き過ぎての説明不足が怖いなぁ。



※注意事項

刃魔シリーズは一応私が著作権を持っていますので転載とかは勝手にしちゃだめですよ。
……する人なんていないだろうけど。
この物語はフィクションです、どう見ても。
狩咲の妄想とか満載でもよければどうぞ。
一部過激な表現があるかもしれませんのでご注意を。







翌朝。
三人の少年は女の園で食事を取り、それぞれが覚悟を決めていた。
孤児院へ帰ったら、モンスターよりも怖い存在が待っているといるのだから。

「僕、無事だったら……」
「止めろ馬鹿。そういうこと言った奴は大抵無事じゃすまねぇ」
「無事ですまないのは、もう確定してると思うよ?」
「だよねー……」

三人がそんな会話をしながらため息をつく。
その顔はあまり芳しくない。
それというのも、この場所は住人の十割が女性。
さらに、彼女達は人買いから身柄を保護された女性達である。
結果として、そういう事件に絡んでいた三人は感謝されることとなる。
で、それが一人にはくすぐったく、一人にはこそばゆく、もう一人には苦々しい思いを与える。
食事でさえそんな感じだった為に、精神的に疲労が溜まってしまっているのだ。
だからこそ、こうして入口そばにあるソファで、女の子達から離れているのだが。

「とりあえず、収穫が無かったわけだし戻ってもう一回話し合わねぇとな」
「だね。アテリア、って勝手にウェルトが名付けちゃったけど、本当の名前も返して上げたいし」
「名前つけたのですか?」
「便宜的に、だ。流石に『おい』、だとかで呼ぶわけにもいかねぇだろ?」

苦笑する少年。
だが、彼が『名前』というものに特別な思いを抱いている人物だという事を知っているルーヴェは、その顔に微笑を浮かべていた。
彼が彼らしさをやっと表に出せた、それはある意味で喜ばしいことであり、そしてある意味では決して喜べないこと。
複雑な感情はあれど、ルーヴェは今目の前にあるものに対して思いを巡らせるべきだと自分を戒める。

「で、次の手はあるのかな、ウェルト?」
「無い。黒幕から何かしてくることを不謹慎を覚悟で祈るしかない……という台詞を俺が吐く訳もないわけでな? 一つ仮説が思い浮かんだから、それを確かめようと思う」

苦々しい顔をするウェルト。
それを見てルーヴェは自分の予想が外れてほしいと思いつつ口を開く。

「で、その予想が当たった場合?」
「……解かりきってるだろ?」

苦々しい顔は変わらず。
だが低く呻くように響いた声は確実に怒気を孕んでいた。
それにキルスは圧され、ルーヴェはため息とともに小言を漏らす。

「聞いた僕が悪かったけど、こんなところでそう発散しない。怯えるでしょ?」
「なら、外にいる馬鹿ガキ共へ八つ当たりなら問題ねえな?」
「私の役職を知っているのでしたらやめてください」
「ちっ」

そんなやり取りをしていると、リリーが見かねたのか三人の方へと近寄ってくる。

「朝から物騒ね? 一体何をやっているのよ」
「別に、憂さ晴らしの方法を考えているだけだ」
「……その方法全て、どう見ても血を見ない選択肢がなさそうなんだけれど?」
「気のせいだ」

不機嫌そうに言ってから、ウェルトはふと思い出してリリーの方へと顔を向ける。

「リリー。お前の姉さんが明後日戻ってくるぞ」

孤児院の主、その妻であるマリーはこの館の主であるリリーの姉。
だからこそ、こうしてウェルトとルーヴェは繋がりがあり、女の館への入館許可も出されている。
とは言ってもこの事実を知る人は少ない。

「……何でそんな大事な事を言わないのよ。まさか、依頼にばかり気が行って?」

リリーの反論に対してウェルトは何が悪いと言わんばかりの態度を貫いて、一言。

「ノーコメントだ」
「ルカー、サフラン。ウェルトの唇奪っちゃ……」
「俺が悪かった」

ウェルトの敗北宣言に、珍しいものを見たとキルスは目を丸くし、ルーヴェは笑いを必死で堪えていた。






「それじゃ、姉さんによろしくね?」
「ああ、覚えていたら伝えておく。忘れていたら……直接手前がこっちに来い。顔、しばらく見せてねえだろ」

ウェルトがそんな言葉を館の主に伝えてから、孤児院への道を歩く三人。
その足取りはやはり、重かった。

「くそ、一歩一歩が途轍もなく億劫だ」
「あ、そういえば今日職務が……」
「敵前逃亡はなんだ? ルーヴェ?」
「不許可、だね」

逃げようとしたキルスの肩をがっしとつかんだルーヴェとウェルト。
その力は予想外に強く、キルスは己が運命を悲観して空を見上げて現実から逃げ出した。

「どうして私までこんな目に……」
「俺の機嫌を少しでも解消するために、俺らへの被害を抑える為の盾として、お前が必要だからに決まってんじゃねえか」
「……酷くないです?」
「馬鹿が、俺は自分に降りかかる火の粉をどうにかする為なら友だって使うぞ」
「僕たちだけがこんな目に会うなんて理不尽だと思わない?」

そんな応酬をしていると、直に孤児院の前。
見慣れた建物が、こちらを拒絶するかのように三人には見えた。

「とりあえず、だ。覚悟をしておこう」
「どんな覚悟か聞いていい?」
「生きる覚悟と死なない覚悟にきまってるだろ?」
「……私達何もやましいことしていませんよね?」
「お前はイノシシに言葉が通じると思うのか? そう思うんだったら頼む、俺は流石にそんな無謀はできねえ」
「ひ、酷い言い方だと思うよ……」

ルーヴェが若干声を引きつらせる。
力強く否定できないのは、一瞬自分でも言いえて妙だと感心してしまったからだったりする。

「お前には比較的配慮があるからな。俺にはそういうもんが皆無だからな」

そう言って、ウェルトは扉の取っ手に手を掛け、開ける。
ガチャリという金属音が響いた直後。
ウェルトの視界に青い服が一瞬入り、次の瞬間。
風。
それが拳風だと解ったのは、何とかそれを地面に倒れこむことで避けてしばらくしてからだった。
抗議をしようと思ったウェルトは第二撃、足による踏みつけが行われようとしているのを見て動作と思考を中断。
横に転がることでそれを避け、床に手を付く。
再び踏みつけが行われようとしていのを見て、振り上げられた足を下から蹴りあげる。
体勢を崩したミシェル、その間にウェルトは膝立ちの姿勢に。
その膝立ちの少年に対して今度はローキックが襲いかかる。
左手でそれを受け止めたが、威力を完全に殺すことはできず膝立ちの姿勢のまま足に体が押されて行く。
が、それは少し進んだところで止まる。

「……おかえり」
「その挨拶にしては物騒だな、おい」

ミシェルはその抗議に耳を貸さず、ウェルトを見下ろし、それからルーヴェ、キルスの二人に目を向ける。
その雰囲気と視線は鋭く、男二人は委縮していた。

「とりあえず、昨日見た物は忘れてね?」
「……はい」
「わ、わかりました」

それしか言えないルーヴェと、思わず素の口調で返事をしてしまったキルス。
そんな二人を倒れたまま観察するウェルト。
二人の顔が青ざめているのが遠巻きに見ている子供達にも分かった。

「ウェルトも、忘れること、いいね?」
「……ま、覚えていても得はねえしな、っと」

床から立ち上がったウェルトは苦笑して、フィルとその隣に立つアテリアの方へと向かう。

「ただいま。何かあったか?」
「収穫も何もなーし。これは、ちょっと本腰入れて探さないといけないかなー?」
「……私も、まだ」
「そうか。仕方が無い、俺の立てた仮説あたりでも確かめるとするか……」

どうにも気の乗らなそうなウェルトを見て、フィルがいぶかしむ。

「どうしたのー? 何時ものウェルトなら嬉々としてそういうこと暴いてついでに相手をぼこぼこにしてくるのに」
「……ちょっとな。この仮説だけは本気で外れてほしいと思ってる」

怒りといった感情を見せずに、淡々と紡がれる言葉。
何時もの彼から出るものではないと察した少女もその表情を硬くする。

「他人に不干渉を貫こうとしているのに、珍しいね」
「……この場合俺に過失がある可能性が出てきたんでな。とは言え、間接のさらに間接あたりになるだろうが」
「無関係じゃない、そこまでなら」
「かもな……だが」

何かを言いかけたウェルトは言葉を止めて顔を別の方へと向ける。
その先にはミシェルとルーヴェが話ている様子を笑いながら見ていたルース。
ウェルトは溜息をひとつついてからそちらの方へと歩み寄る。

「おかえりなさい、ウェルト」
「ただいま、だ神父。とりあえず報告、あんたの義妹に退院のことは伝えておいた」
「おや、ありがとうございます」

頭を下げる神父に、別にんなもんいらないと言ってからウェルトは続ける。
ただし今までのような顔ではなく、何か敵対するものがどこかにいるかのような苦々しい顔で。

「で、数日前以前から……定期的にアルジーア系の薬や薬草を買っていた人間で、ここ最近来なくなった人間はいるか?」
「……一人、心当たりはありますが?」
「そいつ、人体に関する事とか聞いてこなかったか?」
「……っ!? まさか?」

驚いた顔を見せるルース。
対し苦々しい顔のままで少年は笑った。

「アルジーア……安眠系の薬なんてルース神父ぐらいしか扱えねえからな。まさかとは思ったがここまで条件に一致してくれるとは思わなかった」
「結界は、中にあるものを保護するのではなく……」
「ああ。外からのものを拒絶、つまりアテリアに新しく記憶を作ってほしくなかったんだろう。その状態で眠らせて抵抗減らして記憶操作系の外道薬飲ませりゃ、じわじわと本人の記憶は消えていくな」
「……よく、そのような仮説が出ましたね」
「ちょっとばかり覚えがあって、な……」

その言葉はルース以外の誰にも聞こえる事は無く。
聞こえていたとしても、その裏にあるものを察するのは唯の二人。
そのうちの一人であるルースは悲しみをその瞳に宿す。

「ごめんなさい。本来であれば、貴方は……」
「構わねえよ。俺がした約束だ、しかもそれが二つある。どちらも俺の勝手でしたもんだ、気に病む必要はねえよ」

肩をすくめて、彼は言葉を続ける。

「ま、今回のケースは幸いにもそれが不完全な状態で逃げてこれたってとこか。アテリアも一般常識だけは思いだせていたみたいだからな」

ウェルトはそこまで自分の推論を言ってから溜息を吐く。

「所詮これはこじつけどころじゃない唯の空想だ。確かに、前にも同じようなのを見たから当たっている可能性は少しはあるだろうが……」
「……その『前』の時は?」
「仕方がねえから首謀者ぶん殴ってケリつけた。被害者の処置は他の奴に任せるほかねえからな、俺が関わったのはそこまでだ……。もしかしたら、ルース神父。あんたに頼むことになるかもしれねえが……」
「わかりました、その時になったら私も全力を尽くしましょう」
「心強い、な」

ウェルトが神父から顔を逸らせば、そこには子供達の相手をしているルーヴェ。
どうやらウェルトが真剣な会話をしている間子供達を、ミシェルやフィル、アテリアを近づけないようにしていたらしい。

「くくっ、本当にいい親友だ。俺には勿体ねえ。アレで女関係に度胸があれば文句はねえんだが」
「……ルーヴェ君のことですか?」
「ああ。あんたも知ってんだろ? 全く、あいつ等はそんなこと知ったところでこの関係を崩したいなんて思わねえのに、よ」
「それでも、人は喪失の怖さを本能で知っているが故に……克服はし難いのでしょうね」
「違いねえ。でもだからこそ、あいつは強くなるんだろうよ。恐怖を乗り越えようとする者、それ即ち勇者と呼ぶ、ってな」

そう言ってウェルトは腰につるしてある戦闘用篭手を自らの両手に取り付ける。
確りと取り付けられたか確認するように手を開閉させてから、後ろを振り向くことなくルースに向かって尋ねる。

「さて、とりあえず家の場所と名前を聞こうか」
「……ここから北西の丘の上、白い屋敷。名は、呪家に連ねる一つ、カザンドル」
「そこの当主か?」
「ええ、一人娘を亡くして今は一人ですけど」
「はぁ、娘を生き返らせるためっつーべたな理由じゃないだろうな」

彼はため息を吐くと、そのまま孤児院を出て行こうと歩を向ける。

「一人で行く気ですか?」

その背中に、ルースは言葉を投げかける。
ウェルトは口元を笑みの形にして、ああ、と返事を返してそのまま去って行った。
その様子をルーヴェは横目で見ていたが、静かに一回目を瞑ると何時ものように談笑に興じていた。







青い空は何時しか曇り。
ウェルトがその屋敷に着く頃には曇天としか言いようのない空模様になっていた。

「これは、あたりかもな」

荒果てた庭。
枯れたバラ、枯れた噴水。
それらを見て、在りし日のそれらに思いを馳せた少年はため息を一つ。

「やれやれ、どうしてこう後ろめたいものに手を出す人間は庭とかを荒れ放題にしておくかね」

閉じられている門をこじ開けて中に入る。
迎える庭は外から見たままの有様。
枯れ枝を踏み折りながらウェルトは屋敷の入口を目指す。

「……というか、人がいない可能性すら出てきたな」

呟いてそうではないことを祈りつつ、ドアの前に立つ。
ドアを叩くか少し考えてから、ドアを叩く。
篭手の部分ではなく、生身の部分で叩いた為に音はそこまで大きくはない。
そのまましばらく待つ、が反応がない。

「よし、これで相手が何か言ってきても問題はねえ。……ま、話が通じる人間だって事が前提になるが」

呟いて、ドアノブを囲むようにに銀のアンカーを転移。
そのまま、ドアノブを籠手で殴ればそこがきれいに刳り抜かれる。
アンカーで穴をあけてそこに衝撃を与えることで抉り取ったりするのはウェルトのよく使う手であり、ある程度の厚さであればこうしたことができる。

「音を立てすぎたか、まぁいい」

ドアノブがあった穴を取っ手代わりにしてドアを開ける。
途端迎えるのは広いホールとそこに漂う陰気臭い空気。
ウェルトがまわりを見渡せば左右と中央にあるドアに加えて階段とその上にあるドア。

「っていうか、ドアを壊したあたりでもう言い逃れができそうにねえな」

呟いて、適当なドアを開けようとした途端。
それらすべてのドアが吹き飛ぶ。
轟音の後に現れたのは、黒い獣。

「……懐かしすぎてどうしようもねえんだが、できるなら会いたくはなかったぜ?」

タルルトのような普通の獣と違う事を知っている少年は、その鋭すぎる殺気を受け止めながらも左拳をズボンのポケットに突っこんだまま、右手を構えて笑う。
獣は四体、全てが狼型であり、獲物を見て舌なめずりをしている。

「ま、出会ったもんはしゃーねぇ。かかってこいよ、三十秒以内に終わらせてやっからよ」

その挑発を理解したのか、獣達は一斉に飛びかかる。
だが、一斉とはいえそれぞれ距離が違う。
最初に接触したのは左右にあるドアから出てきた二体。
それぞれ両脇から同時に飛びかかってきたが、ウェルトはそれを引き抜いた左手と右手を差し出す。
飛びかかった勢いが彼等に災いして、拳に自分から突っ込む羽目になった二体は悲鳴を上げて転がる。
そのまますぐに飛びかかろうとした彼らだったが、すでに勝負はついていた。
二つの目と鼻頭に刺さった、三本の銀錨によって。

「手前等には魔力がないからな。あっさり刺さってくれて助かるぜ」

その言葉を呟いた矢先に中央から出てきた狼が飛びかかる。
彼は先ほどウェルトに襲いかかった二体の援護があると思っていたからこそ飛び込んだのだが、予定が狂った結果。

「三体目、だ」

その顎を下から拳で撃ちあげられ、さらに目と鼻に当たる部位にそれぞれ銀のアンカーを打ちこまれたため戦闘続行不可能。
先の二体と同じく地面に伏せることとなった。
とはいえ、この『魔物』達に再生能力があることと、一定量の破壊を行わなければ始末できない為、生きてはいる。
視力を奪われてこちらを正確に攻撃できない状態でしか無いので、ウェルトは後ろに軽く跳ぶ。
最後の一匹を相手している間、三匹が暴れて此方に爪を立ててくることを危惧しての行動。
だがその行動が襲撃者に対して思わぬ効果を呼んだ。

「……四体目」

先ほどまでたっていた場所を目標としていた四匹目が、起きあがろうとしていた三体目に躓いてウェルトの前に無防備な姿のまま転がった。
そんな隙を見のがす彼ではない為、しっかりと拳を頭に叩きつけてその他と同じように処理をする。

「さて、消えるまで殴り続けてもいいんだが……ちと骨だな。そこで四匹適当に暴れてろ」

視覚、嗅覚を封じられて暴れる四匹を尻目に、壊された扉の内中央を選びそこへと歩を向ける。
その先は通路、さらにその先には……。


「いやぁ、さっきから見事に熱視線を送ってくれるとはなぁ? 生憎俺にはんな趣味ねーぜ?」
「……出ていけ、人の屋敷に勝手に上がり込みおって!」

黒いスーツに身を纏った男性が、一人。
鋭い眼と侵入者に対する敵意を持った、何かに憑かれたかのような男は確りとそれらをウェルトに向けていた。

「ノックはしたぜ?」
「私の許可無しに入ってきた以上唯の侵入者と何も変わらぬ!」
「違いねえ……でも手前は唯の人の屑だ」

対し、ウェルトは目の前の男を蔑む様に嗤う。

「カザンドル、名前は知らんがその当主……堕ちたもんだな?」
「なんの事だ? 私を侮辱しに来たのであれば……」
「どんな手法使ったか知らねえけどよ……あの『黒い魔物』との混ざり物を造ったろ?」
「……っ!? 貴様! 何故!?」

動揺する男に口端の片方を持ち上げた笑みを向けると、自らの両拳を胸の前で合わせる。
金属音が、廊下に響く。

「どうだっていいだろう、そんなことはよ? ……その資料と手法、混ぜた身元の情報を寄越しな」

途端の威圧。
それは怒気。
ウェルトは自分自身の怒りを他者にぶつけることを厭わない。
他の人間なら、戦いに置いてそれは致命だと思うかもしれない、だが彼は違う。
怒りを持って何が悪い、怒りをぶつけて何が悪い。
要は、勝てばいいじゃねえかと鼻で笑う。
だからこそ、彼は自分が持っている怒りを全て目の前にいる男に向けていた。

「……知っている以上、帰らせる訳にもいかんな!」

怒気に呑まれそうになった男が叫ぶ。
だが、それをもウェルトは薄く笑って受け止める。

「だろうな? ま、仕方がない……」

手を向ける男に対して拳を構えたウェルトは、相変わらず笑みを張り付けたまま……それを残虐なそれに変える。

「五臓六腑、全て向こうに送ってやるよ」
「抜かせ! 地よ!」

途端、地面から土の槍がウェルトに襲いかかる。
相手の行動から詠唱方法がオーソドックスな言語詠唱であることを知りウェルトはさらに笑みを深める。
詠唱方法は三種類。
単語を口にしてその音声を媒介にして魔法を成す言語詠唱、宙に魔力で文字や陣を書いてその文字を媒介にする紋章詠唱、そして最後の一つ。

「遅いんだよ、手前の魔法は」

ウェルトはその槍を避け、そのまま距離を詰める。
その速度は間違いなく、ウェルトの体で出せる速度を超えていた。
だからこそ、男は気が付く。
ウェルトの詠唱は最初からすでに終わっていることを。

「貴様! 付加詠唱をっ!?」
「だから言っただろ、遅いってな」

付加詠唱、三種の詠唱の中で一番優先度が低く一番実用的な詠唱方法。
自分自身の内にある魔力を自身に巡らせ、その自分自身を媒介にすることで言葉や文字を必要とせずに魔法を発動できるという特殊な詠唱方法。
体に魔力を巡らせることにより、肉体強化の恩恵を少ないとはいえ受けられるという利点もあるこの詠唱方法。
だが欠点として、常に巡らせてある分の魔力……最大魔力保有量の半分……を使う事ができないという点が存在する。
この欠点の為に使う人間がかなり少ない。
何しろ、その半分の魔力量で魔法が何発撃てるのか解らないのだし、魔力の回復には時間を要する。
逆を言えば、魔力の最大値が少なければその恩恵を受けることを選ぶ人間は多いだろうが、さらに魔力の最大値が低くなった結果使える魔法が一つ二つしかないのでは意味がない。
……しかし、ウェルトにはそれでいい。
魔力の最大値が稀に見る程に低く、その代わりに回復量は高く、転移魔法との親和が高いせいでその消費量が極端に低い彼ならば。
そんな代償、魔法が使える程の最大量を確保できるのならば全くの無意味となる。

「……格下がぁ!」

ウェルトの拳をあらかじめ張っていた防護魔法の障壁で防ぎ、一歩退いた男は悔しさに唇を噛む。
男は知っていたのだ、その詠唱法を選ぶ人間は魔力の最大量が低いという事を。
だから、怒りを覚える。
呪家の当主として、魔力量も人より優れ、呪術だけではなく万物の魔法……汎用魔法の内の地の魔法まで相当な域にあるとされている自分が。
目の前の魔力量が劣っている人間に対して一歩退かなければならないという事に。

「格なんて生きるのに必要か?」
「ふ、ふん! だが貴様の拳は私には届かん、それが全てだ!」
「確かに届かねえさ……拳はな」

男は気が付いていなかった。
ウェルトが魔物を倒した時、アンカーを打ちこんだその魔法に。
遠目で見た結果、気がつかないうちに魔物に刺していたのだと思い込んでいた。
だからこそ魔力に関わりがない物を拒絶する防護魔法を使った。

「だが、こいつは手前に突き刺さる、確実にだ」
「やってみろ、その前に私の魔法が貴様を穿つ!」

言葉の応酬の後、ウェルトはすぐさま手の中に鉄製のイガを転移。
その間に男は集中し詠唱。

「地よ、抗う者に戒めと苦痛を!」

属性、対象、効果、全てを言語詠唱に含めることで先ほどよりも精度と威力、範囲を上げる。
結果、ウェルトの立っている周囲全てに地の槍が付き出ようとしていた。
対してウェルトは、走った。
自身の付加詠唱による肉体強化に加え、常日頃から肉体を鍛えている彼だからこそ出せる速度。
しかし槍が顕現する方が速く、進路も退路も、今居る場所も安全ではなくなることを察し、思考。
決定、ウェルトの選んだ道は一つ。

「制空権は、誰にもねぇよな?」

跳ぶ。
走る勢いのまま、男に向かって飛びかかったウェルトは下から突き上げてくる槍に目もくれず、ただ男を真っ直ぐに睨んだまま。
結果として大地から伸びる槍は、ウェルトに届くことはなかった。
だが男の余裕は消えない。
確かに大地の槍は避けられた、とは言えウェルトには男に決定打を与えることができないのだ。
物理防護魔法、それがある限り。
少なくとも男はそう思っていた。

「いい曲芸だ。……所詮曲芸だが」

だから男は余裕からの挑発を漏らす。
これは先ほど、ウェルトに一歩退くという判断をした自分の自尊心を回復させるため。
……戦闘には一切必要のないもの。
その余裕が次の一打を許すと知っていれば、男は魔法の詠唱をしていただろう。

「なら奇術はどうだ?」

跳びかかった勢いを乗せてウェルトは右手の鉄毬を障壁に叩きつけようとする。
勿論、それでさえ男の周囲に張った障壁は拒絶する。
そう、『障壁に触れさえすれば』。

「な、ぐあぁぁっ!?」

男は一瞬何が起こったのか解らなかった。
解ったの鉄毬が、『障壁をすり抜けて』自身の左頬に突き刺さったという事程度。

「ちっ、手前の口を封じるつもりだったが……狙いが逸れたな」
「な……にを?」

鉄毬の棘は短い、とはいえ場合によっては頬の肉を貫いて口内に侵入するほどの長さはある。
事実、男も今まさに口内に鉄の味を味わっている最中だった。

「手前の手の内を明かすタマに見えるか? この俺が」

ウェルトはさらに手の中に鉄毬を転移させる。
それを近くで見て男はようやく気が付く。

「転移、古代魔法か!?」

口の痛みも気にせずに男は叫ぶ。
何故なら、それほどの事実がそこにあるのだから。

「古代魔法は、消費も多いはず。貴様の魔法量はまさか……?」
「生憎、汎用魔法一つも撃てねえ、よっ!」

第二射。
ウェルトの手から離れた鉄毬は再び障壁をすり抜けて男の顔へと向かって飛んでいく。
そして突き刺さる鉄毬、しかし今度は男がその左手を犠牲に顔に突き刺さるのを防いだ。

「くっ、覚えておけ! 必ず、必ずあの子を取り戻す!」
「逃がすと思うか?」
「口惜しいが逃げさせてもらう! 地よ、我に一時の安息を!」

ウェルトが第三射を放つ直前、男の周囲の地面が隆起、男を包み込んで大地の繭を形成。
さらにそのままその繭は地面に一瞬で潜る。
後に残ったのは、地面の隆起のより破壊されつくした通路の床と、二つの血まみれの鉄毬だけだった。

「……ちっ、地中に潜るとはなんて非常識な奴だ」

呟いた少年は当初の目的通り資料を探すために屋敷の探索を開始する。
だが、その足取りは重く、顔も苦渋に満ちていた。





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狩咲 佐倉

Author:狩咲 佐倉
ネトゲとかいろいろやってます。

このブログの更新頻度は確実に遅くなる、だろう。




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