軒下の箱

やっているネトゲとか、何か書いたものとかをつらつらと。 不定期更新で行く予定

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
第一章その5

そろそろクライマックスが近くなってきました。
というよりこれの次から戦闘ばかりになりそうです。

それでもまだこの一章で書きたいことというか、タイトルに準じた物は書いてないのだけど……。




※注意事項

刃魔シリーズは一応私が著作権を持っていますので転載とかは勝手にしちゃだめですよ。
……する人なんていないだろうけど。
この物語はフィクションです、どう見ても。
狩咲の妄想とか満載でもよければどうぞ。
一部過激な表現があるかもしれませんのでご注意を。




「ルーヴェ、話がある」

明くる日の朝食後、そう言ってラリアット気味にルーヴェを連れ出すウェルト。
もう既にフィルも、ミシェルも、回りも何時ものことと知っているので見流す。
そのまま孤児院の裏手へ来た二人、その顔は何時しか笑みが消えている。

「いい話だと嬉しいけど……そんなわけ、ないよね」
「ああ。アテリアの過去の資料、その他を漁った時に解かったことなんだがな……」
「やっぱり他の『被検体』が居たわけだね?」
「そういうことだ、実に60名ほどらしいぞ? それがどこへ消えたのか、考えたくねーがな」

ウェルトは吐き捨てるようにそこまで言ってから、壁に拳を打ちつける。
生身の拳を手加減せずに、何度も、何度も、血が滲み始めても、打ちつけた。
それを、ルーヴェは止めることができずに見つめていた。

「その60人あまりだけどな、買ったらしい」
「っ! 嘘でしょ? あれだけ潰して……」
「ああ、それでも奴は俺等の知らないルートで人を調達していやがった」

血が滲んだ拳を壁から離し、今度は空を見上げて一つ深く息を吐く。
何かを、抑え込むように。

「やりたくねえ事やって、それが効果がないとはな。笑い話にもなりはしねえ」
「……僕も、今回ばかりは悔しいよ。もし、とか言いたくはないけどね」
「俺も、自惚れるつもりはねえけどな。自分の力の無さを改めて実感しやがった」

深く、深く息を吐く。
拳の血を拭おうともせずに、ただ静かに。
そうしてから、唇を動かす。
堪えていた何かを、漏らすように。

「あの館の奴らも、まだ呪縛から解き放たれねえ。心の呪縛じゃ、俺にはどうしようもねえ」
「呪縛、ね……」
「だってそうだろ? あいつ等は自分自身に、ああいう事でしか価値がないと思っている。だからこそあんな礼をしようとしたんだろ? ……ざけんじゃねえ! あいつ等がその程度のわけがねえだろ! 家族も! 家も! すべて失って! 人に売られて! 絶望して! それでも尚! 生きようと立ち上がろうとしている奴らがその程度? その程度なわけがねえ! それ以下の俺の様なゴミが生きている中で、あいつ等は幸せになる権利と義務と価値がある! 俺は、そのことを知ってほしいんだよ……っ!」
「ウェルト……」

その目に涙は無くとも、それは正しく慟哭だった。
自分自身に対する不甲斐無さ。
努力をしても、決して報われることのない人がいるという悲しみ。
それら全てを怒りに変えた叫び。

「生憎俺はそういう事は教えてやれねえ。だからリリーに任せればいいと思っていたが……あいつも色々あるんだろうな。あんなことを言い出すとは、な。どうにかしてやりてえが、人間一人ができることには限りがある。俺には、何もできねえ」

吐き捨てるようなその言葉全てが、自分の無力から来る悔しさだとルーヴェは悟る。
自分も同じだからこそ、解かる。

「それに、ルーヴェ。お前にだけは言っておく」
「……何?」
「アテリアは……『俺と同じ』だ」
「……っ!?」

ルーヴェの顔が強張った。
だがそれも一瞬にして悲しみへと変わった。

「まさか、とは思っていたけど、ね」
「ああ、俺もだ。守る理由が一つ増えちまったよ」

深々とした溜息。
もうすでにウェルトの癖になっていることに気が付いて、ルーヴェは気持ちが沈んでいく。
それが、自分のせいだと解かっているから。

「んな顔すんじゃねえよ」
「……僕が、無理を言わなければ」
「だからんなこと言うなっての。本来なら俺はお前に殺されても可笑しくねえんだからな」
「いや逆だよ。僕が君に恨まれて殺されても可笑しくはない」
「なら互い様とでも思っとけ」

そう言って口端の片方だけを釣り上げて笑う。
対してルーヴェは、笑えなかった。

「そう暗い顔をすんな、他の奴が見たら不安になんだろ?」

そう言って踵を返そうとする足を止め。
何時もの笑みを浮かべたままで、力強く一言だけ呟く。

「護るぞ」
「……もちろん」

ルーヴェもまた、何時ものように笑みを返した。








教会の隅。
前と同じように、ウェルトとルーヴェによる魔法の講義が始まろうとしていた。

「さて、護るとは言ったがアテリア自身にもある程度戦えるようになってもらわないと困るわけだ」

そう言ってヴェルとアテリアの前に立つウェルト。
二人の顔を見てから説明を始める。

「その為には魔法を扱えるようにならないとな。全員万属……つまり汎用魔法の適性があることは解かったからな。もうちょっと突っ込んだ話をしてみるか」
「ウェルト兄、前から思ってたんだけどその汎用魔法と古代魔法ってなんだ?」

ヴェルの洩らす質問にウェルトは軽く頷く。

「そこんところをまだ話していなかったか。……そうだな、魔法ってのは最初その適性がある一部の人しか使えなかったんだが、後に誰でも扱える魔法ってのができてな。まぁそこで、前者を古くからあったってことで古代魔法、後者を誰でも使えるってことで汎用魔法って呼ぶことになったわけだ」
「そうだったのか……」
「ちなみに古代魔法は単一の事しかできないが、汎用魔法はその万属っつー名前の通りに火、水、風、地……自然界に存在するものならば一通り操れるぞ? その中で得手不得手、相性はあるがな」
「ちなみに僕は風に相性が良くてね。結果として、風魔法の威力も速度も普通の人よりは高いよ」
「俺の場合は古代魔法なんだが、こちらにも相性があるらしくてな。俺の場合は威力や速度ではなくて魔力の消費量が大きく減少している」

二人の言葉を必死にメモをするヴェル。
対してアテリアは聞いているだけ。
その様子を不安に思ったのか、傍らにいるミシェルが顔を覗き込む。

「大丈夫? アテリアちゃん?」
「……大丈夫。この程度なら、覚えられます」
「アテリアは記憶力が良いんだな」

ウェルトの言葉に微笑みを浮かべるアテリア。
それに見とれてヴェルの手が止まったことにその場にいる全員が気が付いていたが、誰も指摘しようとはしなかった。

「……かもしれません。でもまだ知識は充分じゃないですから……。お兄さん、色々教えてくださいね?」
「ま、俺で教えられることでよけりゃな?」

さて、講義を再開するかとウェルトが思った所どうやら他の面々が面くらった顔をしている。
流石に気になった彼は、とりあえず近くにいるルーヴェに聞いてみる。

「親友、これはどういうことだ? ほぼ全員が鳩に豆鉄砲を食らった顔をしているんだが?」
「……その例えは解からないけど。皆があんな顔しているのはアテリアさんがウェルトを呼ぶ時にお兄さんって言ったせいだと思うよ?」
「ああ、なるほど。そう言えば今まではさん付けだったな。兄呼ばわりになれちまったから気付かなかった」

二人して話していると、フィルとミシェルが足音も高くウェルトへと詰め寄る。
そこに何か気迫のようなものを感じて、後ずさる。
が、後ろは壁。
下がるのにも限界が来て、結果として彼は二人の少女から逃れることはできなかった。

「……な、何だ二人して怖い顔を」
「ウェルト、私は悲しいの。三か月の間とはいえ過ごしてきた中で薄々感づいていたけれど」
「私も薄々考えていたけどねー?」

そこで二人の少女は顔を見合わせて軽く頷いて。
改めてウェルトの方へと顔を向けて口をそろえて言い放った。

「「ウェルトって、小さい子に興味あるの?」」
「ちょっとまてや手前等ぁ!?」

足を踏み鳴らして叫ぶ。
ドスの聞いた声音だったが、二人の少女はそれに臆することなく言葉を続ける。

「だってウェルトって女の子に興味なさそうだしー?」
「その癖、孤児院の子やそこらで遊んでいる子供達には優しいし」

変な視線に晒されながらも、ウェルトは憮然とした表情で腕を組んで反論する。

「……ガキに優しいのは当たり前だろうが。先に生まれた奴は後から生まれた奴を護るのが義務だろ」
「だったら私たちにも優しくしてよー!」
「忘れているようだから言ってやるが、俺とお前等は同い年だ」

するとフィルとミシェルは再び顔を見合わせて、一言。

「「その体格で?」」
「OK、手前等喧嘩売ってるだろ? 全部買い取ってやっから表へ出な」
「わー、うぇるとがおこったー」

棒読みで叫びながらきゃあきゃあ逃げ回るフィル。
それを見ながらウェルトは一つ溜息を吐いてその背を見据える。

「よし、魔法の詠唱についての話をするか……」

ヴェルとアテリアに聞こえる様に言いながら、組んだままの腕を解く。
その視線は離れたところで手を振ってウェルトを挑発しているフィルに向けられている。

「魔法の詠唱ってのは魔法の形を決める大事なものだが……この詠唱には大まかに三種類ある。一つは言語詠唱。世界と自分に言葉で聞かせてどのような魔法を構築するかを刷り込ませる詠唱方法だ」

解いた右腕は、手で椀を作るかのような形を取られたままで胸ぐらいの高さに置かれている。
対して左腕はだらりと力の抜けたようになっている。

「次に紋章詠唱。これは指先から魔力を少し放出したままで宙に文字や記号を描く。もしくは魔力を込めながら筆記用具で媒体に文字か記号を書くことで魔法の形を決定する詠唱方法だ」

目立った反応がないのをいいことにフィルは飛んで跳ねての挑発を繰り返している。
ルーヴェとミシェルはウェルトの声がフィルに届いていないことを知り、警告の声を発しようとするがウェルトの眼光がそれを押し留めている。

「最後に付加詠唱。自分自身の魔力容量の半分を犠牲にして、どのような魔法を構築するかを自分の中に刷り込ませる詠唱方法だ。これを用いた場合のデメリットは魔力容量が効果中半分になること。発生地点と発生タイミング、威力調節など毎回変化する項目を自分の思考だけで決定すること。メリットは身体能力に強化魔法の簡易版程の強化がかかることと……発動のタイムラグを最小限に抑える事ができる点だ!」

叫ぶと同時。
椀のようになっているウェルトの右手の中には手のひら大の金属の球が現れる。
それを見ていたアテリアとヴェルは初めて見るウェルトの魔法に驚きを露わにする。
だが当の本人はそれに構うことなく、掌のそれを素早くフィルに向かって投げつける。
フィルは一瞬びくりと体を震わせるものの、鉄球が放物線を描くように向かってくるのを見て、余裕を持って横に跳んで避ける。
が、その間にウェルトは距離を詰めており、その左手は掌底を放とうとしていた。

「ちょ、っとぉぉぉ!?」

それを体を後ろに倒しつつ避け、バック転の要領でウェルトに牽制の浴びせ蹴り。
そのまま距離を取ったフィルは非難の目でウェルトを見る。

「酷くない!? 女の子に向かってあんなものを投げつけて……!」

そうフィルが指差す先には石畳を砕いて転がる鉄球。
周りには子供達が興味津々といった様子で集まって見ている。

「お前なら避けれんだろ? ……掌底は当てるつもりだったが」
「なんですぐそうバイオレンスな方向に持って行くのー!?」
「いや、丁度詠唱について教えるのにいい機会だと思ってな。俺の使う付加詠唱なんてデメリットが大きすぎて誰も使わねえから実際に見るのは貴重な経験だろうしな」
「……なら最後の掌底いらないよね?」
「よし、次は何について話すか……」
「ごまかすなっ!」

フィルの跳び蹴りが踵を返したウェルトの背に撃ちこまれる。
その勢いは強く、なんとか踏ん張ろうとしたウェルトだったが……。

「水よ! 彼の者の足を掬え!」

フィルの行った言語詠唱により、水が生まれ、その水がひも状になりフェルトの足に絡み付く。
そしてそのままウェルトの足を引っ張った。
結果としてウェルトは床に叩きつけられる。

「で、これが言語詠唱ってわけだねー。ちなみに言語詠唱は特別な場合を除いて最初にその魔法の属性を言わないといけないことに注意だよー!」

倒れているウェルトの背に足を置いて、少し離れた所にいるアテリアとヴェルに聞こえるような大きな声で言語詠唱の説明をするフィル。
水は既に元の水という形を取り戻して、教会の石畳を濡らしている。

「……手前」

低い声で反撃に出ようとするウェルトだったが、後ろから威圧を感じて止まる。
それはフィルも同じだったようで、体の動きをピタリと止めてから後ろをゆっくりと振り返る。

「二人とも、掃除と石畳の張替。お願いしますね?」

フィルの視線の先にいたのはルース神父。
その顔に浮かべているのは何時もの笑顔のはずなのだが、威圧感がある。
恐怖を覚えた彼女はこくこくと首を上下に動かし、その足元にいるウェルトは溜息を吐いてから頭の中で石畳の交換費用の計算を始めていた。








ウェルトが石畳の購入に、フィルが掃除を始めたのを尻目にルーヴェは講義を再開する。

「あはは……講義役がいなくなっちゃったから僕が引き継ぐね? えーと、付加詠唱と言語詠唱はあんな感じだけど……紋章詠唱はこんな感じなんだ」

そう言ってルーヴェは魔力を指先に集めて軽く放出を始める。
そのまま指を宙に文字を書くように動かせば、魔力はそのまま文字となって宙に浮く。

「こうやってさっきの言語詠唱のような文句を書けば……」

文字を書き終わるとその文字は霧散し、霧散した魔力は再び集まって小さな石と変化する。
宙にしばらく固定されていたそれは重力に逆らうのをやめて床に音を立てて落ちる。

「今のは『地よ、その一部をここに』って書いたんだ。欠点としては移動しながらの発動ができない所と、素早く書かないと文字の魔力が消えて書き直しになる所かな。利点は複雑な魔法なら言語詠唱よりも早く済む所と言葉に発しないから奇襲とかに向いているね」
「ふむふむ……」
「……なるほど、使い分けができるんですね」

逐一メモを取るヴェルと、感心したように呟くアテリア。
二人の教え子を微笑みながら見て、ルーヴェはふと視線をミシェルの方にやる。

「……すう、すう」

寝ていた。
この片隅はルース神父が子供達に教鞭を取る場所でもあり、長テーブルが幾つかとそれに合わせて椅子が数個ある。
つまり横になって眠ることはできない。
だから彼女は、自分の腕を枕代わりに長テーブルに突っ伏すようにして寝ていた。

「……起こすのも、悪いね」

普段孤児院の仕事を一手に引き受けている彼女。
傭兵稼業にも足を踏み入れるということもあり、彼女は皆が寝静まった後も勉強をしていた。
それを知っていたからこそ、今回ウェルトは石畳を買うついでという名目で備品の買い出しに行き、フィルは濡らした床を掃除するという名目で孤児院全部の掃除を引き受けている。
思われてるなぁ、と思いルーヴェは少女の顔を覗き込む。

「ルーヴェルト兄、どうしたんだ?」
「いや、疲れてるなって思ってただけだよ」

その言葉に微笑みを漏らして、ルーヴェは顔をあげる。
ヴェルはうんうんと懐いて腕を組む。

「そうだよなぁ、ミシェル姉って皆の世話とか全部やってるし。……甲斐性のある男がもらってくれねーかなー」
「……どこでそういう言葉を覚えるの?」
「って、ウェルト兄が言ってた」

その言葉を聞いて深々と溜息を吐くルーヴェ。
頭の片隅で親友のがうつったかと思いながら言葉を漏らす。

「なんてものを教えているんだか。そのくせ、相変わらず親友は自分の事を……棚に上げてるわけじゃないか。自分に向けられてる好意に対してだけ鈍感なだけだね」
「……鈍感、なのですか?」

興味と驚きが入り混じった声音でアテリアが言葉を漏らす。
昨晩の問答から彼の鋭い面を見た彼女にとっては、予想外の事なのだろう。

「アテリアとヴェルは知らないだろうけどさ。実は貴族の女の子から告白されてたりするんだよね。『貴方の傍に置いてください』って」
「え? ウェルト兄はどう答えたんだ!?」
「……告白じゃなくて、弟子入りだと思ったらしくてね。『面倒』ってバッサリ言っちゃってたよ」
「うわっ、ひっでぇ」

思わず声をあげるヴェル。
アテリアも口に手を当てて信じられないといったような顔をしている。
だがそんな二人の脳裏には容易にそう切り捨てているウェルトの姿が思い浮かんでいる為、どこか納得できていた。

「でも後に続けて、『ま、面倒でも手前が助けを呼ぶ時にはできる限り力になってやる。そんときに盗めるもんは盗んでみな』って付け加えたおかげで勘違い引き起こしちゃってさぁ……」
「心を盗んでみろ、って言ってるように聞こえた訳か。本来は技術を盗んでみろって言ってたんだろうけど」
「その通り。ま、本人も今は色恋沙汰に自分を巻き込む心算は全く無いみたいだけど」
「……それは、理由が?」

アテリアの疑問。
その声は何処か確信めいたものを持って響く。
ルーヴェはそれに、目に瞠り、口元を引き締めてアテリアを見つめる。
それから、息を一つ吐いて。

「あるよ、原因が。だから、今のウェルトにはそんなことを考えられる余裕がない」
「……人の事ばかりに気をかけて、自分を考えられていないんですね」
「いや、それもあるけど。今は自分の事を考える事が出来ないんだ」
「大変なんだな、ウェルト兄も」

その言葉に苦笑をなんとか浮かべたルーヴェはそのまま講義を続けようと頭の中で話す内容を浮かべる。
だから気が付くのが遅れた。
下から近づいてくる魔力の塊に。

「……っ! 風よ! 彼らを包め!」

手で何かを押し出す動作。
その『押し出し』のイメージを風の魔法に張り付け、発動する。
それによって、アテリアとヴェルは席から風に運ばれて吹き飛びながらも、そのまま風に抱かれてゆっくりと着地する。

「……ふん、一気に奪おうと思ったのだが、な」
「生憎、状況判断能力だけは高いと自負しているからね」

地中から出てきた土の繭。
アテリアを狙ったそれは、風に押されたアテリアには当たることはなかった。
それを察した男は繭から一歩踏み出すと、ルーヴェを忌々しげに睨む。

「小賢しい」
「小賢しくても何でも、僕は身の回りの人を護ると決めたからね」

対峙するルーヴェもまた睨み返し、腰にある剣を抜き放つ。
だが、それでも冷静な頭の中では自分が不利だということを自覚している。
孤児院という閉鎖空間。
自分の切り札を使うことができず、さらにアテリアとヴェル、隅でおびえている子供達もいる。
人質になる人物が多い中で、呪術使いであり地の属性の魔法も修めている人物との戦闘。

「……」
「くく、君も自覚しているのではないかね? 今の状況が不利だということが?」

その焦りを悟ったかのように男は厭らしく笑う。
だが、それに対して少年は言い返す。
その顔に、彼の親友と同じような笑みを浮かべながら。

「そっちこそ? まだ昨日の傷が癒えていないんじゃぁない?」
「……」

男の左頬は確かに傷一つなかった。
しかし、口を開くたびに僅かに引きつったような顔をしているのを見逃してはいなかった。

「……減らず口を」
「魔法使いだからね? 風よ! 我が敵を圧し潰せ!」

拳を机に叩きつけながらの詠唱。
『上からの衝撃』を張りつけて発動、その魔法は男を頭上から押しつぶす風となる。

「地よ! 我を護る鎧と化せ!」

男は対して地の防御魔法を詠唱。
石畳が盛り上がるようにして男を包み、大地の繭が生まれる。
風と大地の魔法が交錯。
風は繭ごと相手を圧し潰そうと大地を軋ませ、繭にひびを入れながら上から吹き下りる。
繭はそれに対抗するように、周囲の大地をさらに引き上げてひびを埋めて対抗する。

「きゃっ……」
「アテリア姉は後ろにいてくれ」

風の余波に煽られたアテリアが体制を崩す。
それを支えるとヴェルは風の盾になるように立つ。
その様子を見てルーヴェは微かに微笑むと、再び大地の繭を見据える。
未だ狂風に晒されている繭。
このままでは埒が明かないと判断し、ルーヴェは追撃を加える為に言葉を詠う。

「風よ、集い貫く槍と成せ!」

剣を大地に突き刺しながらの詠唱。
その動作を張りつけて発現した魔法は、繭の上で渦巻いた風を繭の頂点に集中させて落とす魔法。
針のような点に集中させて落された風は、詠唱通り槍のようになり繭を上から下に貫く。
頭頂部に穴をあけた繭はそこからひびを大きくさせる。

「……悪いとは、思うけどね」

目配せでヴェルとアテリアに目を瞑るように合図する。
だが急に違和感を感じ、慌てながらも体勢を整えて魔法の準備に入ろうとする。
それが遅かったと解かったのは、繭が割れその『何もない』中身を晒しヴェルとアテリアの傍に新たに大地の繭が出現してからだった。

「くっ、風……」
「呪よ、顕現……」

迎撃のための詠唱を遮るように、新たな繭から顔を出した男が詠唱を開始。
僅かに早くそれはルーヴェよりも先に発現するはずだった。
一人の少女がその拳で繭ごと男を撃ち抜かなければ。

「……!?」
「痛い……。ウェルトが籠手を着けている理由が解かったわ……」

赤く腫れている手を振りながら涙目で呟くミシェル。
彼女は土の繭ができてからの攻防の余波で目を覚ましていた。
ただしそれは男が繭で防御をしている間だった為に、男はそれに気が付くことがなくこうして奇襲を受ける事となった。
加えて、彼女に巡っている肉体強化の魔法がかなりの強度だったということもある。

「せ……よ……」

だがその奇襲にも動じることなく、男は詠唱を完成させた。
その瞬間、孤児院にいる生きている人間全員が虚脱感に襲われて崩れ落ちる。

「ぐっ……はぁ……。くくっ、動けんだろう……?」
「く……そ……」
「しばらくそうしているといい……じきにその身を喰らいに獣が来る。くく……」

男は嗤って、うずくまるアテリアを担ぎあげる。
それを見たヴェルは、体中に感じる脱力感に抗い、体中に力を入れて立ち上がろうとする。

「離せ……アテリア……姉……を……」
「ふん、這いつくばっていろ、無様にな」


なんとか重い唇を動かしながらヴェルは男を睨みつける。

「……よ、その者に……罪を」
「……っ!?」

それが詠唱だと気が付いた時にはすでに魔法は完成していた。
男は咄嗟に身構えるが、しばらくたっても何も起きない。

「……脅かしおって」

力を使い果たしたヴェルを見下ろすと、男はアテリアを抱えたまま再び繭に包まれ、その繭は地中に消える。
後に残されたのは、荒れた孤児院とそこに響く呻き声だけだった。



コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

狩咲 佐倉

Author:狩咲 佐倉
ネトゲとかいろいろやってます。

このブログの更新頻度は確実に遅くなる、だろう。




(C)2008 GONZO ROSSO.K.K./HUDSON SOFT All right reserved. 株式会社ゴンゾロッソ及び株式会社ハドソンの著作権を侵害する行為は禁止されています。





この人とブロともになる

QRコード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。