軒下の箱

やっているネトゲとか、何か書いたものとかをつらつらと。 不定期更新で行く予定

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本年最後の更新。
でも仮更新、あとで色々変更します!

とりあえずクライマックスに突入しました。

ので、次回あたりはMOE日記の予定、です


(仮じゃない更新終了、でも修正するかも)







「さて……」

町はずれにある屋敷の地下。石でできた寝台に横たわった少女……アテリアの前で男は薄く笑う。

「心なぞ要らぬ物を持ちおった貴様には罰を与えんとな」

意識はあれども身動きのとれぬ少女は、その目に絶望と怯えを湛えたまま男を見る。それに自分の自尊心を満たした男は、その顔に手を置き詠唱を開始する。

「呪、幾重にも重ね。深き時より存在せし鬼と重ね。その欲望のまま、喰らい尽くす下僕と成せ」

呪いの構築。それは普通の魔法と違い、呪いはその地や対象に直接魔法を『埋め込む』という方式を行う為に必要なもの。その結果として、詠唱は時により二つに分かれる事になる。一つ目は対象に呪いを埋め込む為の詠唱。二つ目は、その呪いを発現させるための詠唱。孤児院での詠唱はあらかじめ孤児院自身に埋め込んだ呪いを発動させるためのものだった為、短い詠唱で発動していた。

「ふむ、まずまずの浸透率だな。それでは、貴様を生まれ変わらしてやろう」

涙目になりながらも、声を発することのない少女を見下ろし、喜色を隠そうともせずに男は彼女に絶望を与える。

「呪、その身を喰らいつくせ」

詠唱が終わった途端、少女に激痛が走る。それは自身の体がまた別のものへと変わる違和感から来るもの。人ではない、別の何かへと変わる際の通過儀礼にして洗礼。声をあげそうになる自分を抑え、それに耐えきった少女に男は笑みを深くする。

「くく……壊れずに生き残ったか。ならば命を一つ与えよう」

少女の意思に反して、その体は男の命令を待ちわびている。だがここで抗えば、さらに強力な呪を撃たれると解かった少女は敢えて抵抗をしなかった。次の言葉を、聞くまでは。

「孤児院に行け、その衝動を抱えたままでな」

瞬時体は屋敷の外へ駆けだす。一歩遅れて少女は自身の思い通りにならない体を押し留めようとするが、止まらない。風景が流れていくのを見る余裕もなく、全力で押し留める。それでも、止まったのは屋敷を出てからしばらく走った後。

「く、う……」

街道の中央で蹲り、堪える。自身の腕を、足を、体を見る。通常より長く伸びた爪。若干白く見える肌。今までの自分では出せなかった走りの速さ。
そして、今もこの身を苛む誰かの血を吸いたいという衝動。

「吸血、鬼……」

最悪の予想を少女は立てる。吸血鬼……不死身の体は幾ら破壊されても再生し、闇の魔法と常人では扱えない血の魔法を操り、高い身体能力を誇る種族。呪いにより人間がそれになることはあるが、国によりその呪いの行使は禁止されている。理由はたった一つ、対処ができないからだ。短期間に連続して体の破壊をされれば再生速度が極端に、それこそ完全再生に一年や十数年を費やすことにはなるが、それだけだ。つまりそういう存在になってしまった少女にとって、孤児院の皆を自分が殺すということを確定する事実。抵抗されても滅びる事がなく、そもそも孤児院にいる人間は全員呪いによって動きを封じられている。

「う……う、あ……」

さらに身を苛む欲望。誰かの血を吸い尽くしたい、というそれは時間が経つごとに強くなる。男の命令はただ、『孤児院へ行け』というもの。決して『血を吸い尽くせ』とは言われていない。だがこの状態で孤児院へ行けば結果は目に見えている。

「い、や……」

抗う。けれども、体は男の命を聞き入れてゆっくりと、確実に歩を進める。なんとかして押し留めようとするも、その抵抗は簡単に破られてしまう。
そうして歩き続けていると、何かの気配が後ろから近づいてくるのを察して振り向く。どうやら頭の動きは支配されているわけではないらしく、なんの抵抗もなく動作ができた。

「え……?」

振り向いた少女は呆けた声を漏らす。眼前に広がるは黒い何かの大群が迫りくる光景。その大群に飲まれると少女は思い目を瞑ったが、大群はそのまま両端を通り過ぎて行った。しかし、それらが通り過ぎた後で少女は気がついてしまった。その黒い大群が、黒い狼の群れだと。

「……っ!」

思わず駆け出そうとする自分を抑えて、唇を噛む。行きたい、けど行けない。その心の葛藤が少女を苛む。しかし、次の瞬間その口と目は開かれることになる。

「質より量か、この調子じゃ違う道からも向かってそうだな」

風がその声を少女の耳に運ぶ。先を走っていたはずの狼が消え、そこには代わりとでもいうように一人の少年が立っていた。カーキ色のパンツ、灰色のシャツの上に来ている深い緑色のジャケット。その両手には、鈍く光る籠手。黒髪は硬い髪質のせいか、風に靡くことはなく。その瞳も、決して揺らぐことはなく少女を射抜いていた。

「さて、と」

彼はそこで両手の籠手を胸の前でぶつけると。

「ちぃっとばかり、話を聞こうか?」
「……お兄、さん」

彼……ウェルト・アンガードはそう言って不敵に笑っていた。







時は遡る


「……なるほど」

孤児院の中、呪いの大本を破壊したウェルトは話を聞いてそれだけ呟いた。
ウェルトとフィルが帰ってくると、孤児院全体を呪いが包んでいた。ウェルトはすぐさまそれに気が付いて、呪いの原因を排除。そうして中にいる全員は呪いの束縛から解放された。
悔しさをかみ殺すヴェルから一部始終を聞いたウェルトは心を表に出すことをせずにヴェルを見ていた。

「ちく、しょう……俺が、傍に……」
「ヴェル、お前はよくやった」

涙を零しながら床に拳を叩きつけるヴェルに、ウェルトは肩を叩いて声をかける。

「でもよ! 俺が、俺がもっと強ければ……」
「非力を自覚したのなら努力しろ。そうしていても過去は変わらないし今も変わらん」
「……」
「ま、だから妹(過去)の事は俺に任せとけ。お前は次の時に守れるようになっておけばいい。……こういうのも兄(俺)の役目だからな」

珍しく諭すような口調で言われた言葉に返す為、ヴェルは袖で涙をぬぐってウェルトの目を確りと見て口を開く。

「わかったよ……俺が行っても無理だから。ウェルト兄、お願いだ。アテリア姉を、助けてくれ!」
「もちろんだ」

確りと頷いたウェルトは立ち上がって踵を返す。その先にはルース神父、ルーヴェ、フィル、ミシェルの四人がウェルトを見つめていた。

「というわけだ。あいつを助けには俺だけで行く」
「……理由は?」

詰問に近い声音でルーヴェはウェルトに尋ねる。彼はウェルトがあの男と戦う際のアドバンテージを理解していたが、それでも一人というのは危険だと思っていた。だから、せめてもう一人ぐらいは連れて行け、という意味を込めて言葉を向ける。

「決まってんだろ? 俺の我儘だ」
「僕が納得するとでも?」
「納得しろ。……俺には理由が、あるんだからな」
「ウェルト一人が背負うものじゃない。それに、別の理由があるんでしょ?」
「……ここの場所は割れている。だから手前に守護を頼みてえんだよ」
「……やれるの?」
「やるしかねえだろ? いざとなったら、『人間を止めて』でもどうにかしてやる」
「そこまでいうなら、仕方がないね」

ルーヴェはそう言って溜息を吐き、一応の納得を見せる。そこで、顎に手をあてたままのルース神父はウェルトに顔を向ける。

「私は孤児院の子供達の面倒を見ていればいい、ですかね?」
「混乱が起きないように、頼む」

短い言葉の中に、何時もの感情が含まれていないことに気が付いた神父は沈黙する。それに気が付かないふりをして、ウェルトは二人の少女に顔を向ける。

「お前らも、頼むな」
「……初陣がこんなことになるなんて」
「まぁまぁ、私が付いてるから大丈夫大丈夫」

ミシェルは不安と緊張を抱えながら、フィルは明るくミシェルを励ます。それを見て満足したのか、ウェルトは親友へと顔を向ける。

「無事に帰ってこないと、承知しないよ?」

ルーヴェはそう言って拳を突き出す。

「そっちこそ、確り護れよ?」

ウェルトは苦笑してから、籠手を着けたままの拳をその拳に合わせる。

「もちろん」
「はっ、俺もちゃんと二人で帰ってくるさ」

そこまで言って、互いに拳を離してから笑みを浮かべる。少女二人はそれを複雑な表情で眺め、男はそれを微笑みながら眺めていた。

「とりあえず後で反省はするつもりだからさ……僕の分まで、頼むよ」
「ああ、請負った」

言葉を交わして黒髪の少年は孤児院を去る。残された彼らは、彼の帰る場所を、自分の生きる場所を守る為に意思を固めていた。



時は戻る。





「……お兄、さん」
「おう、その様子だとまだ意志は持ってかれてねえみたいだな?」

左手を腰に当てて右腕の力を抜いた状態のまま、ウェルトはアテリアを観察してそう評価する。彼女に掛けられている呪いは男の言葉を思い出すこと、もしくはそれに意図して逆らおうとすればするほど強制力が高まるというものだ。だからそうして別の事に意識を持っていくことで影響を軽微にすることができる。それを『知っていた』からこそ、ウェルトは慌てずに会話に持ち込んでいた。

「……その口ぶりだと知ってるんですね? 本当、何でも知っているんですね、お兄さん」
「なんでも、ではないがな?」
「……私は、忘れていたん、です。人の温かさも、人の優しさも、人の笑い声も……私の笑い声も」

少女は言葉を漏らす。今まで貯めこんでいたものが溢れる様に、その言葉は止まらない。

「……ルーヴェルトさんが、結界を解いてくれた時。ちょっと、恨みました。だって……あのままなら私は何も知らずに、死ねたのだから。少なくとも、こんな思いを抱いて死ぬことは、なかった」
「死を逃げみたいに言うんだな。お前も」
「ある種一番近い、逃げ道ですから。……でも私、生きていたいと、思えるようになったんです。でも、でも……こんなのって、ない」

少女は言葉を紡ぎながら涙を零す。それは頬を伝い、地面に落ちる。

「……どうして、死にたいと思ったら死ねなくて。生きたいと思ったら……なんで、どうして? 私は、人の命を奪ってまで、人の血を吸ってまで生きたくない! だけど、死ねない、死ねないよ! 教えて、私は、どうしたらいいの!?」

それは叫び。空気を震わせ、少年に届けられるそれ。だが少年は、嘲るように鼻で笑う。

「さぁ? 手前の人生だろ? 勝手に生きて勝手に選んで勝手に死ね。 諦めて人に決断を委ねてんじゃねえよ」

少女はそれに目を見開き、次の瞬間飛びかかる。それは堪えていたものが弾け飛んだかのような速度。人よりも獣より早く、少年に掴みかかりその牙を首筋に付きたてようとする。だが、その速度に慣れているかのように。少年はあっさりと少女の手を掴みそのまま投げ飛ばした。
 
「ふむ、血への渇望が抑えきれなくなったか? ……俺の言葉一つで」
「……どうして? どうしてそんなこと……!」
「あのなぁ? 俺は元々優しくねえ。俺は俺個人の規律に従って生きてるからな? ……ま、かかってこいよ。諦めちまった手前が俺に敵うわけがねえがな」
「……っ!」

再び少女が飛びかかる。血を吸いたいという、食欲よりも貪欲なそれは男の呪いをはねのけて少女の体をも支配する。されど、心は悲しみに包まれている少女のもの。それを悟り、少年は笑う。

「ま、楽になりたきゃ体だけその衝動に任せておけ。意志や思考は保ちやすいだろ?」

動きは衝動のまま、故に速い。しかし、少年は最小限の動きでその爪を回避し、腕を取り、放り投げる。少女がずっと来ているメイド服も、土に汚れていく。

「……っ! どう、して……」

跳びかかる速度は段々と速く。衝動に駆られた体は知性の欠片も感じない動きではあるが、知性の欠片も感じないという事は思考する必要がない行動という事。つまりその分、体はわずかとはいえ速く動く。戦闘ではそのわずから大きくなる、それを示す様に少年の腕には引っ掻かれたような傷が増えていく。その傷からは血が滲み、その腕を赤く染め上げる。

「俺は前に言ったと思うがな? 仕方ねぇ、懇切丁寧に言ってやるよ」

跳びかかられ、投げる。
それを幾度も繰り返し続け、血が何時しか雫となり、血に落ち始める頃。
少年は口を開いた。

「諦めるな」

少女が跳びかかる。
少年は投げる。

「手前の生き方に口出しできる程俺は偉くも何ともねえ」

少女が跳びかかる。
少年は投げる。

「だから口は悪いが手前の好きにしろという他がねえ」

少女が跳びかかる。
少年は投げる。

「だがこれだけは言う、諦めるな」

少女が跳びかかる。
少年は投げる。

「生きることを諦めるな、苦難に立ち向かう事を諦めるな」

少女が跳びかかる。
少年は投げる。

「希望を諦めるな、生きる事を諦めるな」

少女が跳びかかる。
少年は投げる。

「幾度死にそうになっても、幾度苦難を味わっても」

少女が跳びかかる。
少年は投げる。

「幾度絶望を味わっても、幾度その身が傷つこうとも」

少女が跳びかかる。
少年は投げる。

「どんなに醜くて不格好でも、立ち上がるというのなら」

少女が跳びかかる。
少年は投げる。

「抗って抗い続けてそれでもどうにもならない時は、助けてと聞こえるように言えばいい」

少女が跳びかかる。
少年は投げる。

「それも努力だ、抗おうという気概の表れだ」

少女が跳びかかる。
少年は跳びかかってきた少女の手を掴む。

「……だから、もし諦めずに戦って、それでも負けそうなときは助けを呼べ」

そうして、何時ものように口端の片方だけを持ち上げて、不敵に笑った。

「俺程度でいいなら、力を貸してやる」

少女は、衝動を抑え、男の呪いに抗う。
一つ一つの動作が重く、苦しい。
それでも少女は自分の希望を、諦めたくない心を口にした。

「……助けて」
「了解だ」

少年は笑みをその顔に浮かべたまま。
少女の希望を請け負った。

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狩咲 佐倉

Author:狩咲 佐倉
ネトゲとかいろいろやってます。

このブログの更新頻度は確実に遅くなる、だろう。




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