軒下の箱

やっているネトゲとか、何か書いたものとかをつらつらと。 不定期更新で行く予定

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連続更新第三段。
実はもう一個あるんだ。

一先ずはこれで第一章終了。
盛り上がりに欠ける戦闘ですがどうぞみてやってくださいな。







ぐらりと揺れる体。
少年はなんとかそのまま踏ん張ろうとするが、足の腱が切れているのか力が入らずそのまま倒れ込む。

「お兄さん!」
「だから、逃げろって、言ってんだろうが……」

駆け寄る少女に対して、ウェルトは痛みを堪えながら言葉を零す。
そうしながらも自分の体の具合を確かめる。
結果、戦闘の継続も逃走も不可能と判断。
なれば、何が最善なのか。
そう考えて少年は一つの決断をする。

「なぁアテリア、ちょっとばかりあの吸血鬼の目を晦まして、俺抱えて屋敷の裏に逃げてくれねえか?」
「は、はい!」

近づいてくる男を見て少女は覚悟を決めて詠唱する。

「炎よ! 揺らめいて!」
「なっ!?」

アテリアの放った魔法は炎の壁を作りだす魔法。
その陰に隠れ、男の視線から消えた二人。
壁が消えた時には既に廃屋となった屋敷の影に隠れていた。

「……さて、と」

自分の命がこのままでは確実に消える事、そして相手が此方がここに隠れているであろうことに気付く事。
その二つを悟り、ウェルトは口を開く。
少女に対して、語りかけるように。

「こんな状況なのに何を言うかと言うかもしれないが……俺の名前は本当の名前じゃない」
「え……?」
「本当の名前を知っているのは、今の所ルーヴェとルース神父とマリーさんだけだ。そして一つ、今の俺はちょっとした制約(ゲッシュ)があってな。『俺の本当の名』を知っている味方の前でなければ、『本当の俺としての能力』を使うことをしないという、な。もしこれを守れなかったら……愉快なことにはなるな。笑えはしねぇけど」
「なんで、そんな……」

少女の疑問に答えようとするが、ウェルトの体の動きは鈍くなっていた。
それでも、どうにか言葉を紡ぐ。

「俺が俺で、あるためだ。だから、俺の名を、アテリア、お前に知ってほしい。……他の、奴には、この後打ち明ける、心算だった……が」

自嘲を含んだ笑みを見せるウェルト。
その表情は、白い。

「お兄さん! ……解かりました。教えてください。今まで教えてくれなかったのは、何か巻き込むことなんでしょ? でも私はお兄さんに助けてもらった! 庇ってもらった! だから今度は私の番です! 私が、お兄さんを助けます! 力になります!」
「……すまん、な。やれやれ、本当に、妹にしたいぐらいに、良い奴だ」
「私でよければ、喜んで」
「はは……そうか」

ウェルトは一度目を瞑り。
それから口を動かし、自分の本当の名前を言葉にしよういとする。
だがそれと同時、二人の姿を吸血鬼となった男が見つける。

「ここにいたか。だが、もう戦えぬようだな? その苦しみ、ここで終わりにしてやろう」

手を二人に向ける男。
魔法の詠唱を開始しようとした刹那。

「罪に対する罰よ……」

この戦場に途中から現れ、息も絶え絶えなのを堪え。
力強く、宣言する少年の声が響き渡る。

「此処に、在れ!」

それを紡いだのは、ヴェルス・リンスヴァーンという名を持つ。
僅か一日前に魔法という牙を手にした少年。
彼は万属、基本属性全ての魔法という牙の他に、もう一つの牙を以て振るう。
それは、古代魔法に名を連ねる一、罪の魔法と人は呼ぶ。

「な……っ!?」

その魔法は形を成し、黒い鎌の形を取って男に襲いかかる。
それと同時に、男の口をその鎌から伸びた影が覆い詠唱を遮る。
息も絶え絶え、呪いの影響を幼い身で受けながらも彼はここへとやってきた。
恐怖を押し殺し、一人の少女と自らの兄貴分を助ける為に。

「……っ! 小癪な!」

だがそれも一瞬。
男は鎌の一撃を甘んじて受け、口に張り付く影を無理やり引き剥がす。
そして姿を見せたヴェルに対してその手を向けて詠唱を開始、しようとした。

「俺の名を聞け! 俺の名前は雅也! 忍足、雅也だっ!」

その詠唱をかき消す程の声量と覇気。
思わず体を硬直させた男は振り向こうとして。
全身を襲う衝撃に吹き飛ばされた。

「くっ!」

男は吹き飛ばされながらも、拳を地面に叩きつけてその勢いを殺す。
体勢を戻し、男が見たものは。
―― 二足の足で屹立する、銀色の毛を持った狼。……銀の人狼の姿だった。

「なんだ、お前は……?」
「ああ。これが俺の……今できる戦い方だ」

銀狼は笑う。
垣間見える牙は男に恐怖を与え、その背は少女に安心を与える。
いつしか、少女の側へとたどり着いたヴェルは、驚いた目でそれを見ていた。

「さて……。ヴェル、助かった。悪いがアテリアを頼むぞ?」
「わかった」

人ではなくなった。
だが、それでも。
ヴェルが見てきた兄貴分の背中だけは、変わらなかった。
だから人狼の姿になったウェルトを、受け入れることができた。

「逃げるなよ? アテリアは結末を見たがっている」
「もちろん。……女の子を残して逃げるかよ」
「良い返事だ」

銀狼は少年を一瞥してから、その両拳を地面に置き、さながらクラウチングスタートの姿勢を取る。

「さて、吸血鬼。……覚悟はいいか?」
「戯けるな! 闇よ、刻め!」

男が放つ黒い球体。
銀狼はそれを見て牙をむき出し、笑う。
そして、足に力を込め、一気に加速。
同時に咆哮を上げる狼の口。
その音が黒い球体に届いた瞬間、それはあっさりと霧散した。

「ひっ……!」

思わず悲鳴を上げる男。
銀狼は左手を胸に当てた姿勢で男の前に躍り出る。
そのまま銀狼は再びウェルトの、人としての形を取る。

「持ってけ!」

籠手の無い右拳が、吸血鬼の頬を捉える。
ウェルトの拳は男の体を浮き上がらせた所で離れ、男の体は吹き飛んだ後地面に転がる。
それを見て、ウェルトは無造作に男に歩み寄る。
人間に戻った際に、服なども元に戻ってはいたがその体に傷は無かった。

「さて、と」
「ぐ、や、闇よ、刻め……」

男を見下ろすウェルト。
対して詠唱をしようとする男。
だが、その詠唱は魔法を成すことは無かった。

「な、何故だっ!」
「気がつけよ。手前の傷、『治ってねえ』だろうが」

ウェルトの言葉に男は慌てて殴られた頬を口元を手で触れる。
その手には、赤い雫が付いていた。

「教えてやるよ。俺は唯の、『呪い使い』で」

ウェルトは男の頭を蹴り飛ばすことでその意識を刈り取り、その続きを呟く。

「……俺は手前の、天敵さ」

ウェルトは踵を返し、ヴェルとアテリアの待つ場所へと歩を向けた。
彼の視線の先には、駆け寄ってくる二人の顔が見えていた。




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「さて、と」

孤児院に戻ったウェルトは溜息を吐いていた。
それは今回の事件を解決したことへの安堵ではなく……。

「この幸せの真っ最中野郎をどうしたものか」

長椅子の背もたれに寄り掛かるようにして寝る三人。
その真ん中にはルーヴェ、その両脇をフィルとミシェル。
二人の少女は、一人の少年の肩に頭を載せて幸せそうな寝息を立てている。
ルーヴェもまた、心なしか幸せそうな顔で寝ている。
その光景を見直して、ウェルトは再び溜息を吐く。

「ま、たまにはいいか。……さっさと腹くくれよ、親友」

結局ウェルトは何もせず、そう呟いてそこから離れた長椅子へと腰を下ろす。
そうして今度こそ、安堵の溜息を吐く。

「溜息ばかり吐いていると幸せが逃げますよ?」

そんな彼の後ろから、少女の声が届く。

「……アテリアか。大丈夫か?」
「うん。私はもう大丈夫だよ。お兄さんは?」
「人狼になると異常な自然回復力になるからな。それで治した」

アテリアはウェルトの隣に座ると、顔を覗き込むようにして少年の顔を見る。
しばらくそうしていたが、一つ息を吐いてから背もたれに僅かによりかかる姿勢に戻る。

「……確かに、嘘はついてないですね」
「妹に疑われるとは」
「隠し事し過ぎているのがいけないんです」

その言葉に、ウェルトは溜息を吐く。

「隠し事、か。まぁ、言った所でどうにかなるわけでもねえし。お前等には関わって欲しくねえんだよな」
「どうしてですか?」
「そうだな。有体に言えば俺はこの世界では浮く人間だしな。それに何より、大悪人だ」
「私にはそうは……」
「本当に、そう思うか?」

その声が酷く、重い物の様な気がしてアテリアは思わずウェルトに顔を向ける。
そこには何時もの表情とは違い、怒りを、憎しみを、無理矢理噛み砕いているような……憎悪の表情があった。
アテリアは恐怖を感じると共に、悲しみを覚えた。
何故ならば、その表情の中に、他者を気遣う想いが見えたから。

「……お兄さん。どうして貴方は、それを抑え込むんですか? 自分の為? それだったら間違いなく復讐をしているはず。 ……他人の為、そうでしょう?」
「違う。俺は、俺の為だ。俺が、俺である為に……この制約と誓約を守り続ける。唯の男の意地と見栄と、約束だ」

憎悪の表情から、何か遠くを思うような顔に変えたウェルト。
彼が紡ぐ言葉は、芯のある硬い言葉であった。
それでも、少女にはそれが何処か堪えているように感じた。
だから、少女は長椅子に膝立ちになるとウェルトの体をそっと、抱きしめる。

「やれやれ、妹に慰められるとはな」
「……私が助けてもらったんです。今度は、私がお兄さんを助ける番ですから、ね」
「そうか。なら、もしも……」

ウェルトは言葉を紡ぎ、少女はそれに頷く。
それに満足した彼は、静かに目を瞑り眠りに落ちる。
少女はそれでも、少年を優しく抱いていた。
それはさながら、戦士の休息を守る女神のように。


---------------


孤児院に居る面々はアテリアの帰還と無事を喜んだ。
結果、騒がしい立食形式の簡易なパーティが催されることになった。

「ま、たまにはこういう食事も悪くはねえな」

手に持った皿に、ある人手製のサンドイッチを乗せて呟くウェルト。
その製作者は……。

「さぁ! どんどん食べな! 新しい家族の無事を祝うんだよ!」

微笑むルース神父の隣で、シスター服にエプロンという格好でそんなことを叫んでいた。
ウェーブしているブロンドの髪と顔の造形から深窓のお嬢様の様な細身の外見を持ちながら、蓋を開ければ腰の据わった大女将。
その人の名を、マリー・マクスウェル。
ルース神父の妻であり、この教会の母である。

「嬉しいことは重なるっていうけど、本当みたいだね」

退院一日目とは思えぬ働きぶりを眺めていたウェルトの背後から、そんな声が聞こえる。
ウェルトは声の主に顔を向けず、言葉を返す。

「退院が早まるとはな。……それ以上に、あいつらもよくアテリアの事をあそこまで受け入れたよな? 会って一日だぞ?」
「そりゃ受け入れるよ。だって、一目見て良い子だってことは解かるだろう?」
「まあな。 だからこそ、俺はあそこまでしてやったわけだし、自分から助けろとも言ったから助けた」

そう言ってウェルトは視線を向ける。
その先には、嬉しそうに子供達と笑うアテリアと、その隣にいるフィルとミシェル。

「やれやれ。ま、努力は報われねえと、いけねえよな」
「確かにね」

暫し二人してその光景を眺める。

「そういえば、あの男はどうなったの?」
「ん、ああ。あいつはキルス他騎士団が捕まえた。まぁ証拠はアテリアが持ち出してくれてたからな」
「そっか。だから今キルスはいないんだね」
「色々仕事に追われてるだろうからな」
「……それにしても、良く殺さなかったね?」
「あー、まぁな。あれもあれで良い用に使われただけだし、何よりあいつは『アテリア以外に手を出していない』。アテリアが許すなら、まぁどうでもいいさ」

少女三人の方へと向けた顔を動かさず、会話を続ける二人。
すると、何やらヴェルが顔を赤らめながらアテリアと何か話している。
アテリアが頭を下げ、ヴェルがそれに照れていることが解かり、ウェルトは笑う。

「今回は俺もあいつに助けてもらったからな。……今は邪魔はしないでおいてやるよ」
「いつもは邪魔するつもりなの?」
「ああ。何しろ俺はあいつの『兄』だからな。良い男じゃなきゃ傍にすら寄らせるつもりはねえよ」

近くのテーブルに置いてあるカップを口元に寄せ、傾ける。
中に入っている紅茶で喉を潤しながら、ウェルトは意地悪く笑う。

「ま、兄の意味合いが違っては居るんだがな」
「え?」
「約束、したんだよ」
「ああ、あの時に?」
「見てたのか……」
「まぁね? 『羞恥』で『怒り』の残滓を消そうとするなんて……よくやるよね?」
「まぁ、なりふり構ってはいられなくなったんでな」
「それにしても、僕が起きた気配にも気が付かないなんて……」

ここでルーヴェは目を細め、彼には珍しく、嘘であってほしいという願いを込めて、ウェルトに尋ねる。

「限界が、近い?」
「だろうな。あんな風に戦闘をやらかしたんだ。必然の理だ」

淡々と、事実を確認するかのような言葉。

「やれやれ、刃を振るえば振るうほど……刀身である俺の限界が近づく、か。ま、なんだ……『その時』には、頼む」
「やめてくれ。僕に、僕に君を……」

その言葉が付きつけた現実に対して、ルーヴェはただ。

「殺させないでくれ」

そう、懇願するしかなかった。



―― 宴は続く。されど、二人の少年の会話を聞く『人間』は、誰も居なかった。







刃と魔法の使い方 第一章「刃の在処」 END

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狩咲 佐倉

Author:狩咲 佐倉
ネトゲとかいろいろやってます。

このブログの更新頻度は確実に遅くなる、だろう。




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