軒下の箱

やっているネトゲとか、何か書いたものとかをつらつらと。 不定期更新で行く予定

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久々のMOEを題材にしたSSです。

登場キャラクターは二名。
誰と誰かは見てのお楽しみ、ということで。


それでは、お楽しみくださいませ。





エルビン渓谷。
そこのエイシスケイブの出入り口付近には、鹿やパイソン、トレントの住む森がある。
長閑な光景の中、袴を着て静々と歩く女性が一人。
背に小型の薬師箱を背負い、腰には二本の刀。
この刀は飾りではなく、彼女は有事の際、この二本の刀を繰り戦う。
そんな彼女ではあるが、今はこの風景を楽しんでいた。

「あら……?」

緑と茶、その二つが支配する視界の中動くものを発見する。
それは薄い赤を基調とした鎧に、銀色の籠手と具足を履き、動物の骨を頭に被った人影。
人影は、この森に住むエルクと呼ばれる鹿と対峙していた。
それだけであるならば、彼女は気には留めない。
この森には狩りを目的として人がやってくる事も多いからだ。
ならば、何故彼女の目がその人影に留まったのか。

「二刀流、ですね」

その人影は両刃剣と脇差、二本の刃を持って狩りを行っていた。
自身も二本の刀を使って戦う将軍である為、つい気になってしまう。
特に何をするでもなく歩いていた為、そのままその人影を観察する。
と、鹿がその人影に向けて角で攻撃を仕掛ける。
人影はそれに対し、左手の脇差を一旦懐の鞘に収めると、腰に履いている鞘から刃の潰れた小太刀を抜き放ち、そのままの勢いでエルクの角を弾きとばし、返す刀でエルクの脳天に一撃を入れる。
体勢を崩された上、頭を揺らされたエルクは行動をまともに行う事が出来ない。
その間に人影は、左手で小太刀を収めると同時に右手の長剣を振り下ろす。
続けてその左手は懐に佩いた脇差を握り、抜き放つと共に横一文字をエルクに刻む。
十文字に切り裂かれたエルクは、その身体から力を抜いて地面に倒れ込もうとする。
だが、最後の力と言わんばかりにエルクは地面を踏みしめ、人影に向かい突進を放つ。
剣を振るよりも、確実にエルクの突進の方が速い。
見ていた彼女はそう判断した。
だから、これからあの人影が付き飛ばされ木に叩きつけられる、その光景を思い浮かべ思わず跳び出そうとする。
だが……。

「悪いな……」

人影の声が響く。
その人影は具足を履いた足をエルクの横から、腰の力を使って全力で叩きつけていた。

「最期の一撃ってやつを、喰らってやるほどお人好しではない」

動きを止めたエルクは、今度こそ力を失って地面へと倒れ込んだ。
見届けた人影は、その遺体から肉や角を剥いでいく。
その人影に近づく彼女。
彼女はその人影の戦い方に興味を覚えた。
彼女は二刀流の他に弓も使えば足技に武術を用いる。
でもそれは、あくまで『剣で戦う』事を軸に置いたもの。
だが目の前の存在は違った、何もかもが違った。
小太刀で相手の攻撃を受け止め、いなす事など彼女はしない。
防御は足捌きで行うからだ。
さらに、足技で止めを刺す事なんてしない。
足技はあくまで剣を活かす為の物、足技を攻撃としてとらえてはいない。
二刀流、という同じ技術を持ち得ながらも。
彼女と目の前の存在は、違いすぎた。

「失礼」
「ん、何だ?」

だから彼女は思う。
唯一つ、唯一つ。

「私、メリールゥと申す者」

目の前の存在と。

「よろしければ、手合わせ願いたい」

刃を、交えたいと。







  MOE SS    「緋紅色の将、紅き狼」









「断る……と言ったら退いてくれるか?」
「わかりました、急な申し出失礼しました」

彼女……メリールゥは踵を返す。
確かに彼と戦いたいとは思う。
だが、それは自分とは違う技術を持つからこそ興味があるだけである。
だから、相手の意志を無視してまで戦いたいとは思っていなかった。

「……戦闘狂の大馬鹿者ってわけでもなし、か。やれやれ、女の頼みは断るなとも言われているしな……メリールゥとやら、手合わせしてもいいぞ」

メリールゥの動きが止まる。
ゆっくり振り向き、鎧を着た彼に近づく。

「本当ですか?」
「ああ。だが条件がある」
「条件? ……滅多なことは飲めませんけれど?」
「いや何、村に一旦戻りたいだけだ。何しろ俺の荷物が一杯でな」

頭を覆う動物の骨のような兜、その下から笑った気配を感じて、メリールゥは緊張を僅かに解く。

「場所は……そうだな。村の遠く東。海辺方面からエルビンへの入り口、そこから北に行った丘でいいか? 目印が無いから、俺と同行してもらう形になるだろうが」
「構いません。元より此方から願ったことですから」

相手の申し出をメリールゥは軽く頷いて承諾する。
弓も使う以上、このような森よりも開けた場所の方が有利であるし、何よりも場所から見る限り邪魔が入り難い。

「ま、それならばさっさと村に戻るか。……そっちも装備が十分ではないみたいだからな?」

村の方へと歩く彼。
メリールゥは、その背中を見つめ、暫くしてから歩き始めた。

「それにしても粋狂だな。俺程度の剣士とも呼べない男に手合わせとは。見るからにその道の修業を積んできたって人がな」

しばらく歩いていると、前の彼から声がかかる。
メリールゥは答えようか迷ったが、言っても大丈夫だろうと、そう思い口を開く。

「私と比べ、二刀流という共通点がありながらも、相違点が多いですから。だから、興味が沸きまして」
「へぇ、なるほど。解からなくはないが……俺は純粋な剣士じゃないし、剣の腕もまだ未熟だからな?」
「承知致しました」
「っと、着いたな。……互いに準備もあるだろうし、三十分後に村の入り口に集合するか」

軽く頷いて彼に肯定の意志を伝えると、彼は遠くにいる少年への方へと歩いて行った。
それを見届け、メリールゥはエルビンにある銀行に入る。
手合わせする以上、今持っている刀では心許ない。
それに、手合わせを願った以上銘の無い刀を扱うのは礼に欠ける。
だから、銀行員に言って愛刀を出してもらう。

「……久々に、抜きますよ。葵、日向」

二本の刀を腰に佩き直し、今まで持っていた刀を預かってもらう。
念のために、と薬を幾つか出してもらい、薬箱に仕舞う。
三十分まで時間はあるが、これで準備は終わっているので約束の場所に向かう。
やはり、まだ彼の姿は見えず、メリールゥは静かに待つ。
しばらくして、足音と声がメリールゥの耳に届く。

「やれやれ、女の支度は時間がかかると聞いたのだがな……」
「全ての女がそうでないというだけの話です」
「それもそうか。悪かったな……んじゃ、行くか」

彼は先ほどと殆ど同じ姿のまま、平原を行く。
ただ、腰に佩いている刀が一本増えていたことが違い。

「……」

だがその事について触れることなく、メリールゥはその後に続く。
先ほどとは違い、会話の無い道中。
動物達の鳴き声を聞きながら、歩き続ける。
そして開けた平原に来た所で、彼の足は止まる。

「さて、ここらでいいだろう。距離は……適当に開けるか」

八歩程、距離を開けた所で彼が振りかえる。
メリールゥはそれに合わせて腰の葵、日向の二刀を抜き放つ。

「やはりな。さっきのは腕に見合った得物じゃなかったが……今は違うな」
「こちらから手合わせをお願いしましたから。……この刀があるのに、あのまま相手するのは礼に欠けると思いまして」
「そうか。悪いが俺には、程度の低い全力を出す程度の礼義しか、出来そうにないな」

そう言って、彼もまた長剣と刃の潰れた小太刀を抜き放つ。
ここに集うは四刃。
風が吹き、二人を包む。

「名を、名乗らせてもらおうか。そちらが名乗った以上、こっちが名乗らないのも礼義に欠けるしな」

男は、そう言って剣と小太刀を構え直し。

「Tlon。Tlon・東雲。それが俺の名前だ」

そう言って確りとメリールゥの目を見る。
対するメリールゥもまた、刀を構え直し。

「では改めて。私の名はメリールゥ・アワードと申します」

静かに、風に言葉を乗せる。

「……」
「……」

無言。
それはこの場に置いて戦いの開始を告げる者が誰一人としていない為。
互いが互いに、その時を待っているが故の沈黙。
だからこそ。
この沈黙が破られた時、それが開始の合図となる。

「……」
「……」

沈黙が場を支配し、二人が動きを止めてからしばらく。
小さな、それでいて沈黙を破るには十分な。
強い風が木を揺らす音、響く。

「っ!」

瞬時、動いたのはメリールゥ。
素早い足捌きで自らが得意とする間合いに体を入れ、大地を踏みしめる足に力を入れ、胴を狙った横一閃。
左の刀は袈裟の軌跡を描かんと、右肩の上まで上げられていた。
対するTlonは、長剣で横一閃を受け止め、左の袈裟切りを左の小太刀で受け流す。
隙を作らんと、Tlonはそのまま長剣に力を込めて受け止めた刀を弾く。
腕を交差したまま体勢を崩したメリールゥは、右の刀を水平にし、左手を引き戻してTlonの左腕を狙うように払う。
Tlonは小太刀でそれを受け止めると、前蹴りを放つ。
対してメリールゥは、後ろに跳んで避けながら右手の刀で前方を振り払い牽制する。
攻防が終わり、互いの距離が刀の届かない距離に開く。

「なるほど。長剣であれば刀を受け止めることなど造作もないですね」
「……受け止めるので精一杯なんだがな」

方や、心底感心したように。
方や、愚痴をぼやくように。
言葉を漏らし、再び構える。

「さて、行きますね」

だが、メリールゥが構えたのは背に持っていた弓……藍染の剛弓。
刀を仕舞い、代わりに弓を構えて矢を番える。
その姿は、静謐というものを体全体で表したかのように震えも、筋肉の僅かな動きでさえもない。
その状態で、静かに矢から手を離す。
矢は吸い込まれるように、Tlonへと向かい……。
Tlonの胴に突きささる、その前に小太刀で払われた。
Tlonはそのまま第二射を準備しているメリールゥに向かって駆け出す。
そんな彼にメリールゥは、正鵠無比な矢を放つ。

「くっ……!」

Tlonは体を矢の軌道上から退避させ、避ける。
次から次へ撃たれる矢を、体を捻り、時には小太刀で、長剣で弾く。
メリールゥは、その姿に驚いていた。
剣技は彼自身が言っていたように、自分よりも経験の分で劣っているというのは解かる。
それでも、ここまで続けている。
戦闘を、続けている。
だから、メリールゥ自身も自分の中での最善を尽くす。
手の中にある最後の矢を放つと共に、弓を背に背負いながら駆け出す。
両手は鞘に収めた刀の柄に。
視線の先は、矢を小太刀で防ごうとしているTlon。
彼が小太刀で矢を叩き落としたのを見て、いつでも抜き放てるように手に力を込める。
だが。

「っ!?」

視界に映るは飛来する銀の刃。
近づいてくるそれを、刀を抜き放ちて弾く。
甲高い金属音と共に宙を舞ったのは、Tlonが持っていたはずの長剣。
そしてそれに気を取られている間、彼は既にメリールゥの懐に近い場所に居た。
ここに至って、メリールゥは思い出す。
彼は、剣技以外をも牙にする、と。

「喰らっとけ」

メリールゥの体を衝撃が走る。
胴を丸ごと持っていくような勢いのある蹴りが、その身体に突き刺さる。
そこでTlonの攻撃の手は緩まず、そのまま蹴りの連打を放ってくる。
メリールゥは足の猛攻から逃れるように後ろに跳び、刀を構える。
その構えは、攻めではなく守りの構え。
左の刀で彼の足を受け流し、右で袈裟一閃。
気が付いたTlonは小太刀で受け流そうとしたものの、その威力の為に腕が流され、左腕が浅く切り裂かれた。
それを好機と見たメリールゥは、そのまま流れるように刀を振るう。
袈裟、払い、斬り上げ、斬り下ろし、逆袈裟と右の刀が軌跡を描けば。
逆袈裟、斬り下ろし、逆袈裟、払い、斬り上げと左の刀が軌跡を描く。
幾つかは小太刀で弾き、受け流すものの、そうできないものがTlonの体に傷を付ける。
美しくも、強力な剣舞。
Tlonはそれに見惚れることすら許されず、その身を刃で切り裂かれていく。
だが、彼は残った一本の刀を抜いてそのまま大きく薙ぎ払う。
剣舞はそれにより止まり、Tlonはその間に距離を置く。
再び、彼らの間は刀の届かぬ距離となった。

「強い、ですね」

胴の痛みを堪え、息を整えながらも賞賛の言葉を贈るメリールゥ。

「皮肉に近いな。あれほどまでの剣舞を見せられた後では、なおさら、だ」

ぼやきながら、自分のダメージを確認するように腕を見るTlon。
その鎧は、刃の舞に晒された為に幾つもの傷がついていた。

「私には剣の才なんてありませんでした。だから長い間修業に身を置いて、ここまで自分の意志を貫いてきました。その結果をその様に言ってもらえるのは、嬉しいですね」
「俺にも才能は無い。さらに言えば技術も未熟だからな。そこまで極めた……極め続けているあんたとここまでやりあえてるのが奇跡に近い」

自嘲するような笑みを浮かべるTlon。
だが、メリールゥの目には確りと映っていた。
彼の、諦めていない目が。

「なるほど。本当に俺とあんたは似てるが真逆だ。あんたは才能に抗い、剣を極め続けている。俺は才能を受け入れ、それを補う牙を磨いた」
「ええ。私の持つ技術は全て剣を活かす為の物。貴方のように、剣と同列に戦闘で扱う事を考えていません」
「面白いな、こういうのも。最初はある程度で負ける心算だったが……負ける事が嫌になってきたな」
「同感です。最も、負けたくないのは何時もですが」

互いに笑う。
そしてTlonは新たに鞘から引き抜いた刀……刀身から何もかもが青く透き通った刀と、脇差を構える。

「俺はな。才能が無い。防御と攻撃を両方とも一定の水準に保つ事が出来ない。だから、防御重視と攻撃重視で武器や戦法を変えている」

静かに語るTlonを見つめながらメリールゥも構え直す。
そして気が付く。
彼の持つ刀、それに氷の属性付加魔法がかけられている事に。

「攻めるぞ。覚悟はしてくれ」
「ええ、唯攻められる心算はありませんが」

互いに目を合わす。
意志と意志。
意地と意地。
メリールゥの体は蹴りの衝撃からまだ立ち直っていないし、Tlonもまた無数の切り傷が動きを鈍らせている。
それでも二人には、ここでこれを終わりにするという選択肢はなく。
自分の技術を、相手の技術を。
互いに魅せ、魅せられ、ぶつけ合う。
それ以外の選択を、二人が選ぶ事もなかった。

―― 動いたのは、二人同時だった。

メリールゥは左の刀を胴一文字、右の刀を袈裟切りの構えにして駆け出し。
Tlonは右の刀を下段からの斬り上げ、左の脇差を突きの構えにして駆け出す。
先に刀を振ったのはTlon。
右の刀を大きく斬り上げ、メリールゥの勢いを止める。
さらに、一歩をさらに踏み込み脇差による突きを放つ。
メリールゥは体を半身にして突きを避けると右手の刀でカウンターの突きを撃つ。
Tlonは体を捻り、避ける。
さらにその勢いを利用し、さらに体を一回転させその勢い全てを乗せて右の刀を薙ぎ払う。
メリールゥは一歩足を後ろに持っていくことで避ける。
目の前を通過する刃、風斬り音を耳で、刀の放つ冷気を肌で感じながらも攻める手を緩めない。
右の刀で斬り下ろし、左の刀で払いを放つ。
斬り下ろしはTlonの左腕を切り裂いた物の、払いは下から潜り込むようにして避けられる。
さらに、その体勢から掬いあげるような刀の一撃がメリールゥに襲いかかる。
半身では回避できない、と判断して大きく左に跳ぶが、刀の切っ先が着物の下にある右腕に傷を付ける。
同時、そこから中心に鋭い冷気が襲いかかる。

「っ!?」

思わず動きが鈍りそうになる自分を抑え、迎撃を狙う。
Tlonは体を一回転させ、メリールゥを追いかけるようにして脇差で払いを放つ。
メリールゥは迎撃を止め、一旦間合いを離すと払いが終わったそのタイミングで踏み込み、袈裟切りを放つ。
踏み込みの勢いを余すところなく載せた一撃は、肩から下を切り裂かんと風を切る。
避けきれないと判断したTlonは、自らの左手を差し出すようにして直撃を免れる。
衝撃を受け止めながらも、Tlonは右手を閃かせメリールゥに胴を狙った突きを放つ。
手から刀を抜く一瞬を稼がれ、胴の代わり左手を盾にして突きを受ける。
このままではまずいと判断し、メリールゥは前蹴りで間合いを開けようと試みる。
Tlonはそれを避ける為、大きく後ろに跳び、その勢いで刀も左手から抜ける。

「咄嗟の判断も同じ、か。……左手で脇差握るのも辛くなってきたな」
「此方もです。その刀、冷気を宿している……刀自体に宿っている上にさらに魔力付加を行っていますね? お陰で左手が痛みと冷気で痺れていますよ」
「ご名答。俺の剣や技術はあくまで相手を負かす為の物なんでな。……あんたみたいに綺麗なもんではないさ。あんたが王道なら俺は邪道、そんなところだろう」
「王道、そう評価していただけるとは」

互いに苦笑を零す。
双方とも、左腕を負傷。
メリールゥは、左手を盾にした代償として、甲と指から血が滲んでいる。
Tlonに比べ軽症だが、刃のような冷気がそこを中心として広がった為に左手全体の感覚が鈍い。
Tlonは勢い付いた刀を受け止めた為、手甲を超えて刃が手に届き、掌から血を滴らせている。
無視できない程の負傷と見た両者は、包帯を取りだして左手の治療に入る。
互いに、刀の柄と左手を固定するように包帯を巻き、確りと結び付ける。
顔を戻した二人は、互いに左手の白に気が付き、再び笑みを浮かべる。
方や微笑み、方や苦笑。

「その後の判断も同じみたいですね。誰かが偶然だ、誰でもこうなると言えばそれまで。ですが、やはり私達は似ているんだと思います。でもそれ以上に、私と貴方では正反対な所が多い」
「……確かにな。相似にしては違い過ぎる。対称と言うには一致が多い」
「ええ。だから私は貴方の戦闘を見て、戦いたい、その欲求に駆られました。違うからこそ、その技術を視たいと。目で、耳で、肌で……そして、刀で」

構えるメリールゥ。
対するTlon。
ここでTlonは堪え切れないとでも言うように、口で笑みを作る。

「やれやれ、その様に言われるとは、到底思って居らんかったわ」

その口から洩れるのは、今までの年相応な口調とは違い、どこか年季を感じさせる響きを持つ声だった。

「女人にそこまで思われるとは、我が人生の中で初めての経験だ。我が思いと同じ思いを抱いているとは、相思相愛とでもいえばよいのだろうかな? くくっ、このような冗句を言っても熱は否応なしに昂って敵わん」

刀を下に向け、笑うTlon。
メリールゥもまた、笑って答える。

「光栄ですわ。意外と情熱的なんですね?」
「男というものは須く阿呆でな。良い女人の前では誰しも舞い上がるものよ」
「口説き文句を聞くとは思いませんでした」
「我は口説いてなどは居らぬ。その様な心算はないからな?」
「あら、悪い人。此方をその気にさせておいて」
「その台詞、貴殿にそのままお返ししようか?」

軽口の応酬。
それを止めるのは、戦いの始まりを告げた強風。
木々を、草原を揺らすその風は。
二人の熱を冷ますには、至らなかった。
刀を構え、Tlonが口を開く。

「さて、僅かに重ねた齢で培った物など高が知れているが……」

力強く踏み出し、声を張る。

「我が全身全霊を以て、対峙させてもらうぞ! 将軍よ!」

対するメリールゥは、その気迫を全て受け。

「我が身、未だ奥義に届かざるも……」

刀を構え、真っ向からそれを返す。

「心技体、全てを掛けて答えます! 無銘の闘士よ!」



風が乱れ、木々を揺らす音を変える。
合図らしい合図も無く、再び二人は同時に駆け出し刀を振るう。
メリールゥは、右の刀で袈裟切りを放つ。
Tlonは右の刀で横一文字を放つ。
二つの刃は、互いにぶつかる事無く通り抜け。
Tlonの肩当てから鎧にかけて傷を残し、メリールゥの着物を横に切り裂いた。
それでも二人は止まらず、左の刀を繰り出す。
メリールゥは下から上へ大きく払う、それはTlonの胸から視界を塞ぐような軌跡を描く。
思わず首を後ろに倒して避けたTlon、刀は彼の被っていた動物の骨で作られた兜を弾き飛ばす。
それに気を取られる事も無く、Tlonは刀の下へと潜り込むように一歩を踏み出しながら、引き絞った左腕を前に押し出し脇差で突きを放つ。
メリールゥは払いの勢いを利用して左足を一歩後ろに、左腕を体の後ろに振るようにして半身の体勢にして避ける。
刃が風を切る音を耳に捉えながら、攻撃の為に姿勢を直そうとする。
だがTlonに左腕を戻す様子はなく、メリールゥの左側の空間をを脇差の刃が貫いている。
このままでは、体を開いて攻撃に入る事が出来ない。
そんな状態のメリールゥに、左側から体を刺し貫くように青い刀が襲いかかる。
その青い刃を避ける為。
メリールゥはTlonにその背を向けた。
背を青い刃が通過する。
着物を切りながらも、それはメリールゥには届かなかった。
それでも、刃は止まらない。
刃はメリールゥの方へと払いを放とうとする。
だが、メリールゥもまた止まらなかった。
背を向け、そのまま体を回転させてさらに右へと体を流す。
その一瞬後、その左の空間を青い刃が薙ぎ払う。
メリールゥはそれに気を取られる事無く、回りながらも二つの攻撃を放った姿勢のTlonを視界に収めて、足に力を込める。
そのまま回転の勢いを殺さず、一歩、Tlonの方へと踏み込んでさらに回る。
避けられた事に気が付いたTlonが二つの腕を戻そうとする。
メリールゥはTlonに背を向けたまま、右手の刀を逆手に持ち替え、そのまま腰の直ぐ右側を縫うようにして刃を通す。
そして、その銀閃はTlonの腕の間をすり抜け、その喉元へと突きつけられる。
静寂。

「……俺の、負けだな」

右手の刀を落し、静寂を破ってTlonは笑った。

「私の、勝ちですね」

右手の刀を戻し、メリールゥもまた笑った。







「ふう……」

静かに息をついて、メリールゥは空を見上げる。
草原を流れる風が、顔を撫でるのが心地良い。

「やれやれ、戻るのが億劫になって困るな」

聞こえる声、その持ち主もまたメリールゥと同じように草原に転がっていた。
先の戦いの決着が付いた後、包帯を巻きなおし、薬を飲み、傷はなんとか治りかけている。
しかし、襲いかかる疲労はどうにもし難く、二人は草原に転がっていた。

「粗末な技術だが、満足は出来たか?」
「ええ。私にはないものばかりですから」

笑みを浮かべるメリールゥ。
それを見てTlonも口元を緩める。

「そうか。それならば良かった。俺がこんな姿になった甲斐があったというものだ」

その声には皮肉が多分に含まれていた。
何しろ、メリールゥが負った傷は両腕の擦過傷と、左腕には脇差の刺突痕。
対してTlonは全身に鎧を超えた切り傷を負っていた。
が、メリールゥはそれに気が付く事無く。

「大きい収穫でした。それでも、私にはその戦い方は無理ですけれど」
「……それはな。俺とあんたじゃ正反対の部分が多すぎる。中でも一番大きいのは、俺は『闘士』であんたは『剣士』って一点だな」

Tlonは若干苦笑を浮かべながら、言葉を続ける。

「俺は、あくまで俺の作ったルールにしか従わない。その中の一つが『目標を達成する為ならばあらゆる手段を取る』と言うものだからな。その為ならば剣に拘るつもりもない。だけどあんたは……剣に生きるんだろう?」
「貴方の言葉を借りるのであれば、それが私のルールですから」

はっきりと、メリールゥは言葉を紡ぐ。
この生き方(戦い方)を、曲げる心算は皆無。
だから、その言葉はどこまでも揺らぐことはなかった。

「いいね。あんたは羨ましいほどに、まるで曇りの無い刀のように真直ぐだ。だから俺みたいな人間には眩しく見え、ある人は魅せられるんだろうな。そして、その刀が決して曇らないようにと、心を砕く奴も現れる。全く、将軍という立場というものは正しく天職に近いのかもしれないな?」

そう言って立ち上がろうとするTlon。
だが、紅く滲んだ包帯の下、痛みを訴える様で顔をしかめる。
風が吹き、露わになったTlonの赤い髪を揺らす。

「しばらくは放蕩生活も休止か。……悪くはないな」

そう言って踵を返そうとしたTlonは、途中で動きを止めてからメリールゥへと向き直った。

「その着物、高いものだろう? 生憎路銀は持ち合わせてないんでな、体と刀で返させてもらおう……力が欲しければ呼んでくれ」

そうして今度こそ立ち去ろうとする少年。
しかし、メリールゥは起き上がってその手を掴む。
……巻かれた包帯が紅く滲んでいるその手を。

「い……っ!? あれか、手前は俺を殺す気か? ああ?」

ドスの効いた声を返しながらTlonはメリールゥに向き直る。
その顔から、先ほどの対峙の時よりも確実に怒気に包まれていることが解かりメリールゥは慌てて声を出す。

「ひっ、ご、ごめんなさい! 悪気はなかったんです!」
「あったら即刻なます切りにしてる! ……で、何だ? ここまでしてて何もねえとか言い出したらただじゃ置かないが?」

メリールゥは落ちつくように一つ息を吸い込んで。
真剣な顔をTlonに向ける。
そして……。

「よろしければ、貴方の力を『私』に下さい」

そう、言いきった。

「……なるほど。そういえばあんたは将軍だったな。俺は構わない。何だかんだであんたに興味はあるしな。だが……」

対するTlonも、静かな声で返す。
だが、次の一言はどこまでも、ただ一匹の狼のように獰猛だった。

「あんたに、俺を御せるか?」
「してみせましょう。私は私であり将軍。さすれば、仲間を率いる力を持たねばいけませんから」
「承知。……さて将よ、貴殿の軍の名は?」

メリールゥは微笑んで、言の葉を唇に乗せる。

「紅蜀葵、それが私の軍の名です」

Tlonは軽く頷いてから、メリールゥの前で膝を付く。

「我が名、Tlon・東雲。これより紅蜀葵の元に付く。貴殿が貴殿である限り。我が我である限り。緋紅色の旗を掲げて力を振る事を誓う」
「我が名、メリールゥ・アワード。紅蜀葵の将軍として、貴殿を迎え入れよう」

二つの言葉は、草原を流れる風に紛れて消えていった。







……後日。


「……結局それ被るんですか?」
「当たり前だ。見れたもんじゃない顔を晒し続ける理由が俺にはない」
「将軍命令です」
「断る」

エルビンの村で治療を受け、暫し休養したメリールゥとTlonが並んで山道を行く。
そろそろビスクに戻らないといけないメリールゥと、食料は兎も角水が尽きかけたTlonの目的地は一致していた為、こうして共に帰還することになっている。
ちなみに、メリールゥは着物を繕ってもらい新品と変わらない状態に。
Tlonも鎧と動物の骨で作られた兜を修繕してもらい身に着けている。

「なんで断るんですか!」
「軍門につくとは言ったが、俺が一番優先するのは俺のルールだからな。ま、それなりに協力はするが」
「……むう」
「俺を御するつったのは其方だろう? 将軍」

兜の下、くつくつと笑うTlon。
そんな姿にメリールゥは溜息を一つ。

「あの薄い紅色の髪。私好きなのに……」
「あー、一つ忠告しておく。他意が無いのは解かるがそういうことを迂闊に言うな。男は馬鹿で阿呆だから勘違いするぞ?」
「え、何がですか?」
「……何でもない。はぁ、放っておけないタイプって奴なのかねこれは」

ぼやくTlonだが、メリールゥはそれに気がつかず、良い事を思いついたとばかりに手を一つ叩いた。

「そうだ! 戻ったら貴方の事を皆に紹介しましょう」
「顔合わせか。言っておくが兜は脱がんぞ?」
「むう、何時か絶対に脱いでもらいますからね? まぁ、それは兎も角として紹介した方がいいと思うのです」
「ま、確かにな」

メリールゥは楽しそうに顔を綻ばせると、傍らに立つ仲間を見る。
確実に彼との戦いは自分にとって良い経験になった。
自分と正反対ながらも似ているという奇妙な存在との戦い、それは自分に可能性の一端を見せてくれた。
それ以上に、新しい仲間が出来たのが嬉しい。

「改めて、これからよろしくお願いしますね」

微笑を浮かべたまま、新たな仲間に言葉を贈るメリールゥ。

「こちらこそ、よろしく頼む」

兜で顔を隠しながら、新たな仲間に頭を下げるTlon。


―― 紅き将軍と狼の開合の物語は、このようにして幕を閉じた。





MOE SS    緋紅色の将、紅き狼  終

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狩咲 佐倉

Author:狩咲 佐倉
ネトゲとかいろいろやってます。

このブログの更新頻度は確実に遅くなる、だろう。




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