軒下の箱

やっているネトゲとか、何か書いたものとかをつらつらと。 不定期更新で行く予定

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はい、また一カ月ぶりになってしまいました。
もっと執筆ペースはやめたいのですが、なかなか……。


今回は結構長いかもしれません。





『例えば、振る度に自分の知らない誰かが死んでしまうという剣があるとする』
『?』
『だが、その剣を振らなければ自分の友達が、家族が死んでしまうと言われた時に……どうする?』
『……』
『答えは出せねえよ。そもそもそんな状況に陥る事は殆どないだろう? ……だけどな、確実にそう言う状況は存在する』
『……』
『ま、対処法は知らないから教えられねえが覚悟ぐらいは決めておけ。何もできないっていう最悪の選択肢だけは選ぶなよ?』
『お兄さんは、どうするつもりですか?』
『決まってんだろ? 誰かの力を借りるのさ。 誰かの犠牲で生きながらえることを喜ばない程の偽善者だからな、俺のダチは』










少女は静かに目を開ける。
周囲には暗闇。
だが、しばらくすると少女の前方に一人の人影が浮かび上がる。
黒く、ぼろぼろになった外套で身を包み、その両腕に黒い鎖を巻きつけた少年の姿。
ウェルト・アンガード……忍足 雅也と名乗る人間の姿がそこにあった。
だが彼は少女に気がついたふうもなく、ただ傷ついたその身を以て巨大な黒い竜と対峙していた。
それだけでその場所が、この世界とは別の場所だということを理解した。
これは彼の過去。
それを見て、少女は一つの問いに答えなくてはならなかった。
それが、第二の試練。
過去の出来事だというのは解かっている。
だから、彼はこの戦いに勝つのだろう。
それでも、少女は苦しかった。


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「小さきものよ、この世界に本来ならば関わるべきでなかったものよ。何故そこまでこの世界を救おうとする?」
「……約束は、守るものだろ」
「仲間も喪い、ただ矮小なだけの人間が。その小さな理由で我を倒すか?」
「ああ」

黒衣の少年は、両腕に着けた白銀の籠手を構える。
それに呼応するかのように、彼の腕に巻き付いた鎖が鎌首をもたげるように蠢く。

「ならば倒してみるがいい! それでも、あの女は戻らぬがな!」
「ああ、お前の腹の中だったな。……馬鹿な女だよ、俺は大丈夫だと言ったのに、な」

彼の唯一の仲間だった少女。
彼女は、目の前の竜の前に立ちはだかることで、少年に貴重な時間を遺した。
結果、その少女は笑いながら目の前の竜に喰われた。

「だけどな……」

黒衣の少年を飲み込もうとした黒い竜は、その呟きと共に動きを止めた。
否、止めさせられた。

「何……!?」

竜に絡み付くのは鎖。
黒い鎖が、大きく広がりその顎を受け止め、そこから侵食するように絡み付き始めていた。

「ミリアは身を捧げてまで手前の力を弱めた。後に、俺に繋げやがった。……だからな、手前を倒すのは俺じゃない」

鎖で全身を覆われた竜は身じろぎ一つすら許されず。
少年が白銀の籠手を胸の前で打ち合うことで響く、澄んだ音を聞く事しかできなかった。

「ミリア・ケルトホウルという変な名前の、強い女だ」

身動きできない竜の体に白銀の拳を叩きつける黒衣の少年。
その籠手は、持ち主の意志を叶えんとその力を発揮する。
竜の骨が内側から砕け散る音が響く。
だが、少年はそこで止まらず左拳も竜に叩きつける。
二つの拳からは、強い衝撃が生じ、竜の体を内側から崩壊に導く。

「お、おぉぉぉぉぉぉぉっ!」

その二撃で止まらず、少年は幾度も拳を叩きつける。
段々と削られていく竜の体。
止まらぬ拳は何時しか奔流となり、竜の体にひびが入る。
それでも、その拳は止まることがなかった。

「終わり、だ」

これで最後だとでも言うように強く、右の拳を竜の体に叩きつける少年。
ひびだらけの竜の体は、そこを中心として崩れ去って行った。
そうして、断末魔すら許されず世界を喰らう竜は滅ぼされた。
粉々になり、黒い砂と化した竜が風に吹かれて宙に舞う。
それを眺める黒衣の少年は、涙もこぼさずに身を翻した。


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少女は、少年がどんな過去を持っているのか、知ってしまったことを後悔した。
これは、少年が自分の口で言いたかった事だと感じたから。
それでも、目の前の場面は変わる。

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黒衣の少年は、死者の頭領を滅ぼした。
世界を死者で埋め尽くそうとしていた存在を、本当の死者へと変えた。
だが、犠牲は少なくなかった。
この世界唯一の生存者であり、彼の仲間である少女は少年の腕の中で、血を流していた。

「……なぁ、アルト。空は青くなった、だから一度くらい目を開けてみろよ」

少年の問いかけに、少女は微かに笑った。
灰色の空しか見たことの無い少女にとって、青い空を見ることは夢であった。

「うん、見えてるよ……」

声は弱々しく、耳を澄ませないとかき消えてしまいそうだった。
そんな彼に届く声。

「あーあ、予想してた結果と違うなぁ」

少年は少女を優しく地面に横たえ、声を発した人物と対峙する。

「……お前がこの世界の管理者か」
「そうだよ?」

その人物は、10歳程度の外見を持つ、金髪の少年だった。

「折角、あと少しで目標達成だったのに」
「……何故だ?」
「だって詰まんないんだもん。だから、一回リセットしようと思ってさ」

屈託なく笑う世界の管理者……この世界の神と呼ぶべき存在。
対するただの人間は、苦い顔で拳を握る。

「死者であるならば、理を元に戻すだけで死する。そういうことか」
「そそ。生きている人間を全部殺すのは、流石に面倒くさくてね」

その一言を聞いて、黒衣の少年は腰につるしていた鞘から剣を抜き放つ。

「へぇ? 僕に刃向う心算?」
「ああ、それがこの世界を救う為に必要ならば、な」
「はははははははははっ! やってみてよ! 僕は神だ! 人の作った武器なんか……」
「確かに、『人の作った』武器では殺せないな」

笑い声をあげる神に、無造作に刃を沈みこませる少年。
すると、神の笑い声は途絶え、代わりに信じられないと言った声が響く。

「え? これ、は……?」
「ある馬鹿な神が、狂った双子の神を助けてくれと言ってきてな。その方法として、自身の体を犠牲に神を傷つけることの剣を作り、それで弱らせた所でその魂を以てして双子の魂を浄化するっていうもんを提案してくれやがったんだ。……結果、狂った神は正気に戻った時に泣き喚いたがな」
「そ、んな。まさか……っ!」
「ああ。この剣はその馬鹿なダチが身を犠牲に作った、普通の剣では斬れないもの『しか』斬れない剣だ。……全く、どうしてこうも皆、俺の前から全部消えていくんだかな」

少年は嘆息し、苦笑する。
対して、神を名乗っていた存在は目に涙を浮かべ、懇願する。

「あ……、いや、だ。死にたく、ない」

黒衣の少年は、笑わなかった。

「皆一緒だろ、そんなの」

その一言が終わると共に、神の体は砕けて消えた。
残された少年は、少女が見たがっていた青い空を見上げてから、剣を鞘に収めて身を翻した。
その視線の先には穏やかに目を瞑り横たわる少女。

「……俺は、お前の願いを叶えてやれなかったな」

少女の口元には微笑みが浮かび。
少年の口元は、何の形もつくらなかった。


---------------------------



傷ついて、喪って。
それでも他の世界を救い続ける少年。
その姿を眺めていたアテリアは、何時しか涙を流していた。
彼と、傍らに立っていたはずの人がどんな関係かはわからない。
けれど、少なくとも仲間だと思える程の時間は経っていたはずだ。
悉く、彼らを、彼女等を失い続けるあの少年は、一体何を思って世界を回っていたのだろうか。
少女には、ただ訪れる悲しみが多大なものであることしかわからなかった。

「どうして、どうしてお兄さんは泣かないんですか、どうしてそこまで世界を救おうとするんですか……ただの、人なのに」


呟く少女の前に、再び映像が映し出される。


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少年は、ただ静かに目を瞑っていた。
この結果に、抗う術を伝えられ。
それを行う覚悟を決める為に。

『……決まりましたか?』
「選択ならばもうすんでいる。世界四つ救う『だけ』でこいつらが助かるんだろう? 安いもんだ」

少年は、眠るように横たわる三人の友人達を見て、笑う。

『大丈夫、ですか?』
「ああ。世界が一つ食われたが、俺はこうして生きている。家族にはもう会えなくなっちまったが、未練は無い。……ま、こいつらを助けられたのは、運がよかったな」

自虐の笑みを浮かべる少年。
その身に刻まれた幾つもの傷が、その身に流れる血が、望まれない力を持っていたとしても。
それらが、幾度も恨んだ筈のそれがこの結果を引き寄せた。

「普通の人間、か。ははっ、そうだよなぁ……」

それでも、あくまで少年は普通の人間だった。
戦う力を持つとはいえ、それは己が身を人ではない存在へと変化させることで得られるもの。
その様なことが、長時間維持できるわけがない。
かといって、そうでもしなければ敵を倒すことすらままならない。
魔と呼ばれる存在が居ない世界で過ごしていた彼は、良くも悪くも平和に慣れ過ぎていた。
その世界の中で、異端とされる呪術師の家に生まれたとはいえ。
彼はどこまでも、それを憎んでいた故に、戦う事ができなかった。

「……嬉しい言葉ではあるんだが、アレに言われると腹が立つな」

少年は笑う。
獰猛に、獰猛に。
目の前で、労わるように心配そうな顔を見せる女神には目もくれず。
どこか遠い、世界を喰らった存在を思い言葉を落す。

「人を殺すに魔法は要らぬ。人を殺すに刃は要らぬ」

そのまま、彼が唯一自らの家に存在した言葉の中で心に残している文句を、呟く。

「この後に、呪いがあれば人は死ぬ。 ……と続いていたんだがな」

俺には似合わなかったんだよな、と零す少年。
その姿を見つめるのは、少女の姿をとっている……彼が世界の管理者と呼ぶ存在だけだった。

「だけどな。もしも俺がその道を歩いていたら、さ……俺はお前等を救えたのかね?」

少年は足元に転がって意識を失っている三人の少年少女を見下ろす。
かけがえの無い友人達は彼に眠るような顔を見せている。
沈黙の後、少年は口を開いた。

「仕方がねえ。これが俺の選んだ道だ。常人には辛い道のりだろうが……超えられないわけでもないな」

その口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。

「世界を救うのは何時だって唯の人だと誰かが言ったしな。ま、これが俺の罪だというなら。背負い込んだもの程度、きっちり始末を付けてやるさ」

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映像が途切れ、少女は言葉を失った。
彼は、異能があるから戦ったのではなく。
戦わざるを得なかったから戦い始めたという事実。
それがどんなに辛いことか、少女には想像できなかった。
さらに彼は、泣かないのではなく泣けなかった。
嘆く暇は無く。
涙を零す事が許せず。
見合った力を持たない彼は、友を救うために世界を救う道を選んだ。

「……結局、人の為じゃないですか」

彼が傷つくのは。
彼が悲しむのは。
彼が、泣かないのは。

「馬鹿、ですよ。私を助けて、私なんかを背負おうとして……」

貴方は、他にも大きなものを背負っているのに。

「それが、貴方がいう自分らしさなんでしょうか。お兄さん……」

自分の兄になると言った少年。
少女にはその理由が解かっていた。
彼は、少女に家族と呼べる存在が一人もいなくなることを悲しんでいたから。
だからせめて、兄の代わり程度は務めたいと思ったのだろう。

「……あの男は、我儘を貫く」

響いた声に少女が振りかえる。
そこには二頭の番犬が並び立っていた。

「実現が不可能なものもあった、だがそれを可能にはせず不可能なままで貫いた。……悲劇で終わる事もあった、その結果が見えていた事もあった。それでもあの男は最後まで足掻いた、だから最悪よりは少々良い結果になる事もあった」
「……」
「覆せるほどの力はあの男にはない。あの男はあくまで唯の人間だ。ただ、唯一『道具を使う』という一芸を鍛え続けた唯の人間だ。英雄ではなく、勇者でもなく、唯の人間だった。だけど、世界を救う英雄にならざるを得なかった」
「唯の人が努力も無しに英雄になどなれはしない。故に、涙を零す暇を惜しみ、苦しみに呻く暇を惜しみ、あらゆる時間の『無駄』を省いた」

友の死に幾度も出会い、友と幾度も別れ。
その度に悲しみが彼を襲おうとも。
彼は、泣く時間を誰かを救うために捨てていた。

「……泣かないん、ですね」
「ああ、辛い……辛い旅路だ」

弱音を吐く暇が無く。
足を止める暇も無く。
ようやく悲しめると。
旅路で起きた全ての事を思い返せると。
そうした上で、ゆっくりと休息を得ることができると思っていた。
だが彼は、その場所を奪われた。
それを少女は理解してしまった。

「だから、悲しむよりも先に怨んだ、憎んだ……ですか」
「その通りだよ。だからアイツは囚われた」
「結果、あの男はまた自らに課した。……詰る所、貴様が背中を見ている人間はその様な存在だ。……貴様は、あの男を目標とするか?」
「いいえ」

試験である問い。
それに対して少女は即答した。

「お兄さんは解かっていません。そんな姿を見せられて、悲しまない人がいると思ってるんですか!? 私は、もう誰かを悲しませたくありません」

そうして少女は。

「私は……私の道を行きます。泣きたいときには泣きます。悲しみたいときには悲しみます。その上で……私は誰かを護って見せる。私がされてきたことを、誰かに返します」

英雄への一歩を、踏み出した。

「我儘だな」
「我儘ですよ。私は……お兄さんの義妹(いもうと)ですから」

自分の体が人のそれと大きく外れてしまったとしても。
自分の持つ力が人の持つべきものではないとしても。
義妹になるかと言った彼。
そうして兄になろうとしてくれた彼。
少女はそんな彼を、兄と呼ぶことを決めていた。

「強い、そして面白い……」

二頭の番犬は静かな声を響かせ笑う。

「よかろう。我等、二頭の誇り高き番犬の名の元に」
「二つ目の試練を通過したことを認めよう」
『さぁ、次の試練に身をゆだねるがいい』

急に宣言された言葉と共に、少女を突如浮遊感が襲った。

「決して後悔せぬようにな」
「君の悔いが消えるように、祈るよ」

それでも、案じるような二頭の声が聞こえて。
少女は浮遊感に身を任せ、二頭に対して安心させるように微笑んでいた。
そして、少女の意識は落ちていった。


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「狙いが甘い」

ウェルトはそう呟くと、黒い鎌の軌跡を僅かに体を逸らして避ける。
さらに、黒い鎌の持ち主に足払いをかけて、転ばせる。

「……この調子じゃどこまでやれるかわかったもんじゃねえな」
「ちく、しょ……」

転んだ少年……ヴェルは呻きながらも立ち上がる。
彼は自らの兄貴分であるウェルトに対しヴェルは唯頼んだ。
『自分を強くしてくれ』と。
誰かを護れるように、二度と後悔をしない為にと。
先の戦い、その帰り道。
少女の願いと、全く同じものを彼は望んでいた。

「……一つ聞くとするか」

ヴェルの様子を見ながら、ウェルトは静かに問いかける。
それは少年に対して休息をやる、というのも目的の一つではあるが大きな目的はこの問いをすることにある。

「罪の魔法ってのは、本来は無形。その人間が罪というものにどのような意識を持っているかによってそれは形を得る。ある人間は剣だった。ある人間は本だった。ある人間は鎚だった。ある人間は……自分自身だった」

まるで、それを近くで見てきたかのように語るウェルト。
それに対して、ヴェルは静かに聞く。

「……」
「だから聞く。何故お前の『罪の魔法』はその鎌なんだ?」

少年は強く口を結ぶ。
だが、意を決したように口を開く。

「……俺の母ちゃんを、父ちゃんを、姉ちゃんを。そして村の皆を殺した奴が持っていた得物が、黒い大鎌だった。だからだと、思う」

手の中の鎌を強く、強く握りしめた少年は一旦目を瞑り、再びウェルトを真正面から見つめる。
ウェルトはそれを全て受け止め、それから再び口を開く。

「そうか。悪かったな。だが、忘れるな? 人は一人では生きられず、生きている限り誰かの為に生きることができる。そして復讐は、場合によっては手の中にあるものを全て捨てることになる。そういうことをな」

その言葉は何時もの彼からは考えられない程静かに、落された言葉。
回りくどく、装飾された言葉で脚色されたそれは、彼なりの警告なのだろうと少年は受け止めた。
それと同時に、ヴェルはウェルトが近いうちに消えてしまう、そんな予感がして表情を変える。

「そんな顔をするな。俺はまだまだやり残したことがあるからな。しぶとく生き続けてやるさ」

笑うウェルトに少年は頷きを返して、鎌を構える。
ウェルトはそれを見て、拳を構えず片手で早くかかってこいと催促をする。
程度の低い挑発、それに乗ってヴェルは一歩足を踏み出すと共に大鎌を振るう。
当たらないはずの距離、だがヴェルは鎌から手を離す。
飛来する大鎌はウェルトに向かい飛んでいく。
だが、それはウェルトの手に嵌められた籠手により、金属音と共に弾き返された。
そこから伸ばされた黒い影も、ウェルトの体を止めることは叶わず。
ヴェルはその結果を見ようとして、ウェルトが駆け寄るのを目にする。
弾かれた鎌を消滅、手元に鎌を精製し迎撃しようとする。
しかし、ウェルトが手を振ると、そこから砂らしきものがヴェルの顔に投げつけられる。
思わず顔を覆ったヴェル、その次の瞬間には頭を掴まれ、そのまま地面にひき倒されていた。

「ま、なんだ。相手が使うのが持っているものだけとは考えるな? あと余計な動作があればこうなる。気を付けろ」
「……子供相手に容赦がねえって思わないか、ウェルト兄」
「阿呆か。お前は戦うんだろ? 戦うってことは命をかける事もある。ならば、こんな手でも知っておくべきだ。……結局は慣れた戦い方が一番良いんだがな」

ヴェルを解放し、そのままウェルトは言葉を続ける。

「良いか? お前の持つ罪の魔法は『罪のイメージを持つ物を精製し操る』ことと、『それを中心とした一定範囲内の対象の体の一部を封じる』以外できない。さらにこの封じの力は弱い。前回もそうだったと思うが成人男性が掴んではがせる程度だ」

ならばどうするのか、そう問うような少年を見てウェルトは口端を釣りあげて笑みを浮かべる。

「使い道を考えろ。一撃を入れる、その為ならば弱い封じでも意味はある。腕を封じれば、解除に両手を使わなければならない。その間に一撃を入れる。……お前のその鎌は、魔力をつぎ込めば動きを遠くから制御することも可能なんだろ? だったらそれを使うという手もあるな。ほら、お前が今やった事以外にも色々あるだろう? 威力なんて求めるのは後だ。まずは当てることを考えろ。足が傷つけば生物の機動力は低下する。腕ならば攻撃力が低下する。胴であるなら失血と痛みによって動きが鈍化するかもしれない。だが、当てることが向いていないと思うのであれば威力のみを極めるのも悪くはないな。当たれば必殺の域まで高めれば中々に強いぞ? 身近な例ならミシェルだな、それは」

そう言って踵を返そうとするウェルト。
だが、ヴェルは終わってないとでも言うように起き上がった。
途端、足がふらつく。
それでも、口を開く。

「待てよ。まだ……終わってない」

ウェルトは振り返り、溜息一つ。

「阿呆が。こんなこと無理をしてやっても意味がないぞ? あとその台詞は女を護る為に戦って倒されて、それでも起き上がる時に吐け」

そう言って、適当に石を放る。
ヴェルはそれを避けることができず、当たり倒れ込む。

「そうだな、その気概に免じて一つだけ教えてやる。……本来は自分の魔法の事程度自分で調べるのが普通だけどな?」

仰向けになったヴェルに、ウェルトは相変わらず笑みを浮かべながら言葉を続ける。

「罪の先には道がある。……お前がどっちを選ぶのかは知らねえがな」

そうして今度こそ、ウェルトはヴェルに背を向けて去って行った。


--------------------------

「罪……か」
「……見てたのか?」


教会の裏手に歩を向けたウェルトに届く声。
それが自分の相棒の物だと気がついて、顔を向けずに返答する。

「まぁ、ね。罪、僕や君があの魔法を使ったら、どうなるんだろうね?」
「そうだな……俺の場合は俺自身かもしれないな。何しろ、俺は善悪を考えずに行動しているからな。……要らんことで罪を重ねる心算は無いが、必要とあらばやるのみだ。だが相棒、お前の場合はあの二人がそうなるかもな?」
「解かっているよ。だけど……」

ルーヴェは、今までの表情から一転、目を鋭く細めてウェルトを睨む。

「『僕の務め』は僕の我儘を清算してからだ。僕の名の重みを感じる時は、君の枷が外れる、その時だ」
「……悪いな、相棒。俺がさっさと自滅しておけばいいんだろうがな。生憎それは出来なくてな」
「やったら怨む。君は最後まで『自分の為に』戦い続けてそして笑って死んでいけ。……それが、僕の二つ目の我儘だ」
「馬鹿が。俺は今までもそうしてきたっての。あくまで自分の為に、アテリアの手助けもしたし、フィルをあそこから連れ出した。お前を助けるのも、俺自身が親友を助けられない人間になりたくないだけだ。力がないなら別だが、生憎とただの人間である筈の俺でも出来ることが多くなっちまったからな。出来る以上は、やらないといけねえだろ?」
「そういう生き方だから、僕等みたいな人間は困るんだ。……借りばかりが増える一方で、返させてはくれない。そっちは返してもらっていると思うだろうけど、僕自身が納得できない」
「難儀だな?」
「だったら生き方を……変えるのは無理か」
「ああ。無理だな。無理だからこそ、ここに居る」
「はぁ、全く面倒な人に厄介になったものだって思うよ」
「くくっ、犬にかまれたとでも思っとけ。さて、一つ伝えないといけないことがあってな? ……俺への魔法が緩んだ」

その言葉と共に空気が張り詰める。

「……可笑しい。何故こうも、この時期になって僕達の周りが動き出す? 王が動き出した? ありえない」
「確かにありえねえな。あのおっさんとは一回戦ったことがあるから力量は察せられてる。っていうか、何だあのおっさんは。王にしておくにはもったいないほどの豪傑だろうが。あれだ、絶対戦争とか起こったら前に出て戦うだろアレ。っていうか出さない方がもったいねえ。アレ一人で五十は行けるだろ。手加減されまくってようやく『勝負に負ける』事が出来たぞ?」
「まぁ、ミドルネームが『バルト』だからね。あと、仮にも国王なんだからアレとか言わない」
「化物にはアレで十分だ。さて、話を戻すと色々動き始めた原因だが……恐らく相手方も焦っているんだろう。何せ、もう俺の『準備』は終わっている」

ルーヴェが顔を向ける。
ウェルトは笑う。
笑って、視線を落とす。

「だけど、だめだ。……俺は、まだ許せないでいる。この復讐の幕を、綺麗な形じゃ下ろせねえ」

その力無い笑みを、ウェルトはただ地面に向け、ルーヴェもまた、それを見ることしかできなかった。


-------------------------------------

ある城の一室にて。
二人の少女は震えていた。
彼女達がこの間遭遇した人間。
彼に対抗する為に、『英雄』を呼び出し支配しようとした。
だが……。

「……此処は、何処だ?」

その部屋に居た『英雄』は呟く。
怯える少女からは情報が手に入らないことが解かり、さらに言えば帰る方法も無い事も彼には察しがついていた。
何故ならば、自分に怯えているならばさっさと送還してしまえばいいのにそうしなかったからだ。

「とは言え、戻ったとて何もやることは無き身。なればこそ、この自由を満喫させてもらうとしよう」

そう呟いた少年は、窓を破って外へと去って行った。
残されたのは怯えた少女。

「あ、あの顔。一緒、だった……! シェルティの支配を、受け付けなかった人と……!」

悲痛な叫び。
それが何を意味しているのか、誰もが知る由もなかった。

-------------------------------------

「……」

男が歩く。
手には錆びついた大鎌。

「よんで、いる……」

大鎌を引きずりながら、何処か夢遊病者の用に歩き続ける男。
その歩の後には、黒い獣の群れ。
その歩の先には、王都があった。


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狩咲 佐倉

Author:狩咲 佐倉
ネトゲとかいろいろやってます。

このブログの更新頻度は確実に遅くなる、だろう。




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